『こんな事があった』という表題にギョッとさせられた。2011.3.11。二度と忘れることのできない揺れ、情景、空気。私は日比谷にいたのだが、何時間もかけて歩いて家に帰り、ぐしゃぐしゃの部屋を整理し、親族にひとまず無事であると報告し、テレビのニュースをかじりつくように見た。そこからおそらく数日後に始まった次なる展開にも胸が痛んだ。ベクレル、セシウム、除染という言葉を初めて知った。

『こんな事があった』という表題は広く我々に向けてのものであると共に、なかったことにしたい、あるいは、すっかり済んだことにしていい気になっている層に向けての警鐘でもあるまいか。「こんな事があったんだよ、知ってるよね、まさか知らないとか忘れたとは言わせないよ、もう一度言うよ、こんな事があったんだよ、私たちの住む国で」を強い意志のもとに短縮した語句が『こんな事があった』という表題なのだろうかとも、考え込ませる。
ドキュメンタリーではなくドラマで、『追悼のざわめき』(1988年)、『どこに行くの?』(2007年)を送り出してきた松井良彦監督にとっては18年ぶりの作品であるという。13年間に及ぶ構想の上につくりあげた、ともきく。舞台は2011年夏の福島。主人公のアキラは17歳、本来なら青春まっさかりの年ごろだが、母親を原発事故の被曝で亡くし、父親は除染作業員として働きに出ている。このアキラ役には前田旺志郎、友人の真一役には窪塚愛流が扮しているが、あえて2011年当時、少年だった気鋭を起用したのだろう。ほか井浦新、柏原収史、波岡一喜、近藤芳正らも出演。モノクロームの淡々とした画面、語句を絞ったセリフからうかびあがる「怒り」に私は尊さすら感じた。
映画『こんな事があった』
9月13日(土)新宿K’s cinemaほか全国順次公開
<キャスト/スタッフ>
前田旺志郎 窪塚愛流
柏原収史 / 八杉泰雅 金定和沙 里内伽奈 / 大島葉子 山本宗介 / 波岡一喜 近藤芳正 井浦 新
監督・脚本:松井良彦
企画・製作:松井良彦 プロデューサー:窪田将治 江守 徹 ラインプロデューサー:宮下 昇 撮影監督:髙間賢治(JSC) 照明:上保正道 録音:浦田和治 藤本賢一 美術:畠山和久 美術(福島班):山本伸樹 特殊造型:松井祐一 ヘアメイク:東なつみ スタイリスト:森内陽子 助監督:山口雄也 YAMAOKA 音楽:菅沼重雄 編集:藍河兼一 制作プロダクション:フェイスエンタテインメント 制作協力:ふればり 配給・宣伝:イーチタイム
2025年/日本/モノクロ/130分
(C)松井良彦/ Yoshihiko Matsui