今、アメリカで内戦が起きたら? 「まるで戦場にいるような没入感」と評された一作『シビル・ウォー アメリカ最後の日』

 私が邦題を見て最初に思い出したのが、ロバート・アルドリッチ監督の『合衆国最後の日』であった。ある意味、戦争で心も何もめちゃくちゃにされた男にスポットを当てた、やるせなくもスリリングな作品であったが、この『シビル・ウォー アメリカ最後の日』も、ふるえるようなスリルに満ちている。「アメリカ国内での内戦」がモチーフというところは、かつてこの大陸が「南北戦争」をおこなっていた時期に思いを馳せさせてくれるに充分なものの、物語で描かれているのは「いつかこの先、ひょっとしたらありえるかもしれない世界」。ストーリーと共に、強い印象を残したのは、何作品にでも拡張できそうな展開を、109分に凝縮した歯切れよさ。監督・脚本を担当したアレックス・ガーランド(『エクス・マキナ』で第88回アカデミー賞の視覚効果賞を受賞)の才気が光る。

 この映画で描かれている「アメリカ」は、「西部勢力」と「政府軍」による内戦で荒れている。とくに際立った主役はおかない群像劇であるようにも感じられたが、核となるのはやはり「ジャーナリスト4人」、そして14ヵ月取材を受けていない「第3期目の大統領」だろう。この大統領から話を聞き出すべきだと意気込む4人は、ニューヨークから約1300キロ離れたホワイトハウスへ、命がけの出張取材を行う。あまりにも広大な「戦場アメリカ」を、縦断するのだ。途中に遭遇するさまざまな出来事は、争いがいかに人の心を腐らせていくかを如実に示しているかのよう。英語がネイティヴのように使いこなせないアジア系の人に対する、目を覆いたくなるようなシーンもある。どうしてこんなことになったのか、なにか打つ手はないのか。ジャーナリストは全員、ことをなしとげることができるのか。もしあなたが地球人民ならば「これはひとごとではないし、いつかフィクションではなくなる可能性も」と感じるのではなかろうか。画面に登場する「ホワイトハウス」の大きさと輝きが哀しい。

 出演はキルステン・ダンスト、ワグネル・モウラ、スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン、ケイリー・スピーニー他。

映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』

10月4日(金) TOHO シネマズ 日比谷 ほか全国公開

監督・脚本:アレックス・ガーランド
キャスト:キルステン・ダンスト、ワグネル・モウラ、スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン、ケイリー・スピーニー
配給:ハピネットファントム・スタジオ
原題:CIVIL WAR|2024年|アメリカ・イギリス映画|109分|PG12
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公式サイト
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