「栄養学」と「スリラー」の、驚きの出会い。2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作品『クラブゼロ』

 色合いが澄み切っている。調度品のフォルムも配置も澄み切っている。チリひとつない、指紋ひとつついていない感じか。人間が入ろうとしても、「生々しいものは拒否」とばかりにはじかれてしまいそうだ。

 が、その「澄み切った空間」が、この映画では学校の教室であることを知る。しかも名門校である。ここに赴任してきたのが、栄養学の教師であるノヴァク。彼女は生徒たちに「意識的な食事(conscious eating)」を説く。「少食は健康的であり、社会の束縛から自分を解放することができる」というのだ。このコンセプトが生徒の心をつかんだ。“ダイエットしたいけど「絶食」はきつい、だけど「少食」なら、クラスメイトと一緒にできるかも”、というところか。ほか、「社会の束縛から自分を解放」というのも、親とうまくいく年頃でもない生徒たちには魅力的に響いたはずだ。

 生徒有志たちは、いつしかノヴァク先生を頂点に置く集団と化していく。育ちざかりなのに、とにかく、食べない。それがエコにもつながっていく、という考えでもあるようだが、いっぽうで皿に盛られた食事を捨てるシーンもあるから矛盾もはなはだしい。だがそれに気づかないのも若さであり、おまけに栄養分を失って顔色が悪くなっていく自分にも気づかない。先生は穏やかな人柄だが、人心の掌握にかけては悪魔的なまでのパワーがある。

 観ているうちに「生徒は“洗脳”から解けるのか?」「その“洗脳”から生徒を救い出すのは誰だ?」「栄養失調死が出なければいいが」など、さまざまな副旋律が心の中で鳴り始めた。そして、物語後半のスピード感ときたら! 年末に来て、「(食事を、命を)いただく」ことの重みを思いっきり考えさせられた。監督はジェシカ・ハウスナー、主演はミア・ワシコウスカ。

映画『クラブゼロ』

12月6日(金)新宿武蔵野館ほか全国公開

出演:ミア・ワシコウスカ
脚本・監督:ジェシカ・ハウスナー 撮影:マルティン・ゲシュラハト
2023年|オーストリア・イギリス・ドイツ・フランス・デンマーク・カタール|5.1ch|アメリカンビスタ|英語|110分|原題:CLUB ZERO|字幕翻訳:髙橋彩|配給:クロックワークス
(C) COOP99, CLUB ZERO LTD., ESSENTIAL FILMS, PARISIENNE DE PRODUCTION, PALOMA PRODUCTIONS, BRITISH BROADCASTING CORPORATION, ARTE FRANCE CINEMA 2023

公式サイト
https://klockworx-v.com/clubzero/