原作はイギリスの作家リチャード・アダムスによる児童文学(英国カーネギー賞とガーディアン賞を受賞)、主人公は野うさぎ。日本では1980年の夏休みに公開されたことがあるという。などと書いていくと、いかにも子供向け、かわいい動物たちが出てくる夢いっぱいの物語のように思われるかもしれないが、私の印象は正反対だ。メッセージやイデオロギーを感じさせるセリフ、野うさぎの声をあてている俳優の苦み走った発声、漫画的というよりも実写的な野うさぎの描き方(私は開始当初のチップマンクスを思い出した。あちらは野うさぎではなくてシマリスだが)などなど、これはどちらかというと大人、さらにいえば「子連れの親」に向けた作品なのでは、とも感じた。
よって内容も辛口だ。サヴァイヴァル・オブ・ザ・フィッテスト(適者生存)という言葉が似合いそうな闘いのシーンもあるし、人間が決して「動物たちのよき友」のようには描かれていない。はっきりいって相当にシリアスであり、だからこそ、アート・ガーファンクルの甘く滑らかな歌声による主題歌が心を和ませてくれる。
製作は1978年、そのオリジナル劇場版が今回、HDリマスターで上映されるのは本当に喜ばしい。しかもオリジナル音声+日本語字幕での上映は今回が日本初であるという。製作から約半世紀、環境破壊はさらに進んでいるはずだ。大人こそ、作品の持つ「酸っぱさ」を享受できるのは間違いのないところだろう。監督・脚色・製作マーティン・ローゼン。
映画『ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち』
11月30日(土)よりシネ・リーブル池袋、シアター・イメージフォーラムほか全国公開
声の出演:ジョン・ハート、リチャード・ブライアーズ、マイケル・グレアム・コックス、ジョン・ベネット、ラルフ・リチャードソン、サイモン・カデル、テレンス・リグビー、ロイ・キニア、リチャード・オキャラハン、デンホルム・エリオット、ゼロ・モステル、ハリー・アンドリュース、ナイジェル・ホーソーン、ハンナ・ゴードン、クリフトン・ジョーンズ、マイケル・ホーダーン、ジョス・アクランド、メアリー・マドックス
監督・脚色・製作:マーティン・ローゼン
アニメーション監修:フィリップ・ダンカン
アニメーション監督:トニー・ガイ
原作:リチャード・アダムス
編集:テリー・ローリングス
音楽:アンジェラ・モーレイ、マルコム・ウィリアムソン
歌:アート・ガーファンクル『Bright Eyes』
1978年/イギリス/英語/カラー/DCP/93分/ステレオ2.0 ch/1.85:1(アメリカンビスタ)/原題:Watership Down/日本語字幕:大石盛寛/提供:是空、ハピネット・メディアマーケティング/配給:アーク・フィルムズ
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