ニューヨークの「シンシン刑務所」やシカゴの「クック郡刑務所」の名を知っている日本人は十中八九、ディープな音楽ファンに違いない。後者にはB.B.キングやジョージ・フリーマンのライヴ盤があり、前者には今なお第一線で活躍するピアニスト、エディ・パルミエリの歴史的なライヴ盤『Recorded Live at Sing Sing』がある。その「シンシン」での実話を基に作られた映画が、4月11日からTOHOシネマズシャンテ他にて全国公開される『SING SING(シンシン)』だ。

主役はコールマン・ドミンゴ(本作でゴールデングローブ賞主演男優賞にノミネート)だが、出演者の85パーセント以上がシンシン刑務所の元収監者であるというから驚きだ。つまり今は更生している面々が、母校ならぬ「母刑務所」のために再び集まったわけである。私が数多くの音楽本を読んだり、ミュージシャンに取材して得た実感では、アメリカの刑務所はやたら厳しく活動を制限したりはしない。それぞれ別の件でしょっぴかれたミュージシャンが刑務所で出会ったとか、「世界最強のバンドは実は刑務所の中にあるものだ」という話をきいたこともある。この映画で主役となるのは、演劇を志すひとたち。演劇プログラムを学ぶ囚人たちの、エモーショナルな、ときにソフィスティケイトされた姿が物語の主軸になる。
「元囚人が囚人役に扮し、かつて実際に体験した事柄を、今度はひとりの役者として再現する」という、演技とリアルの間を限りなく狭めていくような収録手法が無類にスリリングだ。無実の罪で捉えられた男と、刑務所一の極悪と目される男が、次第に心の距離を近づけていくあたりも見もの。ユニークな作品であると同時に、うまくいいあらわせないが「いかにもアメリカという感じの映画に出会った」という気持ちにもなった。音楽好きからの注目度も高いSXSW(サウス・バイ・サウス・ウェスト)映画祭で、「観客賞」を受賞した一作である。監督はグレッグ・クウェダー。
映画『SING SING(シンシン)』
4月11日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開
監督:グレッグ・クウェダー
出演:コールマン・ドミンゴ、クラレンス・マクリン、ショーン・サン・ホセ、ポール・レイシー
原題:SING SING | 2023年 | アメリカ | カラー | ビスタ | 5.1ch | 107分 | 字幕翻訳:風間綾平 配給:ギャガ
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