期せずして、ということだろうが、最近はなんだか復讐系の映画が多い。『皆殺しに手を貸せ』、『アマチュア』、そして本作、皆そうだ。もちろん味付けはどれも異なっていて、つまり「恨みはらさでおくべきか」というマインドが、いかに人々の心を活気づかせ、クリエイターの創造心を刺激するか、ということなのだろう。そして我々も日頃なんらかの(とくに人間関係での)面白くなさを抱えているものだから、画面上で復讐がうまくいったりすると、なんだかスカッとした気分になってしまうのだ。

そこで本作『サイレントナイト』だが、このタイトルは、復讐劇が12月24日クリスマスイブのよる(「きよしこの夜」)であること、および主人公が声を失った、つまりmuteとかdumbという単語で現わされる状態であることをかけている。私など「うまい命名だなあ」と思ってしまったけれど、ストーリー展開も実に巧みで、「術中にはまる」という感覚を嬉しみながら物語を見た。言葉なしで、顔の表情、身体の動き、ほか、体液の色や分量などで、見る者にその人物の状態をわからせていくジョン・ウー監督の手腕はさすがというしかなく、主演を務めるジョエル・キナマンの切れ味がまた、素晴らしい。あのとき、ギャングどうしの銃撃戦のそばにいなければ、息子が銃弾の犠牲になることはなかったし、自分の声帯も機能していたはずなのだ。たまたまそこにいた数秒が、彼や息子の運命を変えてしまったのだ、ギャングによって。
捨て鉢なまでの怒りのエナジーと、それを遂行していくための、実に冷静な頭脳との対比も味わいどころといいたい。
映画『サイレントナイト』
2025年4月11日(金)新宿バルト9 ほか全国ロードショー
製作・監督:ジョン・ウー 脚本:ロバート・アーチャー・リン 撮影:シャロン・メール 音楽:マルコ・ベルトラミ
出演:ジョエル・キナマン、スコット・メスカディ、ハロルド・トレス、カタリーナ・サンディノ・モレノ
2022年/アメリカ/英語/カラー/ビスタサイズ/5.1CH/104分/原題:SILENT NIGHT/字幕翻訳:長岡理世/配給:クロックワークス【映倫:R15+】
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