ぶどう農家を営む妻・あゆみとその夫・龍馬が物語の一つの中心にある。龍馬は母親と二人暮らし、あゆみはそこに「嫁入り」した形だ。夫の母=姑と暮らしを共にするとは、それだけでもあゆみの一大決意がうかがえる。が、土地柄なのかその家の伝統なのかどうなのか、龍馬は妻を「おまえ」呼ばわりし、あれこれ命令し、乱暴な口をきき、会食時にまだ他の人が食べている時でも喫煙するような男(外で吸うときは吸殻を地面に投げ捨てて踏みつける)。だがあゆみはおとなしく流す。龍馬の母はいつも息子の味方、つまりもめたところで2対1になるのはわかっているし、しかも住んでいるところは龍馬母子の家なのだから、無駄に抵抗しないほうが身のためなのだ。

龍馬は冬になるとタクシー運転手として東京に出稼ぎに行く。あゆみは龍馬の実家にとどまって別の仕事をしている。そこを訪れた営業マンが優しかった。会話のはずむひとだった。また会いたくなった。いっぽう龍馬は東京で偶然、幼なじみの女性を乗せる。本当に偶然、久しぶりだったが、昔好きだった子だから嬉しさは高まるばかり、会話もはずんだ。また会いたくなった。龍馬の口調は少しも乱暴ではない。彼の中に本来あるはずのやさしさや照れが、彼女の前だとごく自然に出てくる。龍馬もあゆみも、配偶者とは別の異性と会っているときのほうが生き生きしている。
こうなると、「それぞれが新しい恋を成就してゆくのが精神的にもとても良いはず」と思わされるのだが、物事がすんなりいかないのが大人の世界であり、結婚・離婚とか不倫とか妊娠とか世間の目といったファクターが絡んでくると、まあ、課題が山積みだ。龍馬とあゆみは、それに屈して熱のない夫婦を続けていくのか、まだ出会った頃の、姑が入り込む前の初心に戻ろうとするのか、新たなパートナーと真のグローリー・オブ・ラヴへと到達するのか、それはこの映画を観終えた者だけが知ることができる。
出演は、あべみほ、奥野瑛太、佐野岳、仁科亜季子、東ちづる、小原徳子、中野マサアキ、丸純子ほか。監督・いまおかしんじ、脚本・松本稔。
映画『真夏の果実』
2025年5月17日(土)より 新宿K’s cinemaほか全国順次ロードショー
<キャスト>
あべみほ
奥野瑛太 佐野岳 小原徳子 東ちづる 仁科亜季子
中野マサアキ 中西美帆 丸純子
古藤真彦 才藤了介
<スタッフ>
監督:いまおかしんじ 脚本:松本 稔 企画:利倉 亮 郷 龍二 プロデューサー:江尻健司 アシスタントプロデューサー:竹内宏子 撮影:田宮健彦 録音:飴田秀彦 植田 中 編集:蛭田智子 助監督:伊藤一平 ヘアメイク:刈茅樹里 衣裳:藤田賢美 制作:井口光穂 インティマシー・シーン監修:佐倉 萌 写真:三宅英文 音楽:宇波 拓 整音・音響効果:藤本 淳 キャスティング協力:関根浩一 営業統括:堤 亜希彦 配給宣伝:ムービー・アクト・プロジェクト 配給協力:ミカタ・エンタテインメント 制作:レジェンド・ピクチャーズ 配給:ムービー・アクト・プロジェクト
2025年/85分/ステレオ/R-15作品
(C)2025「真夏の果実」製作委員会