抜き差しならないニューヨークの救急医療現場、その「リアル」に迫るスリラー作品。『アスファルト・シティ』

 ニューヨークで奮闘する救急救命隊員の物語を約2時間にわたって描く。ニューヨークにはティファニーとか5番街とか、とてもきらびやかな場所もあるけれど、この救急隊員が勤務しているのはハーレムというエリア。あなたが命がけのブラック・ミュージックやラテン・ミュージックのファンでもない限り、あえて観光に行く地域でもない。

 心拍停止の人、激しい暴力を受けて顔が変形した人、移民なのか英語の通じない人、さまざまな「命の危機にある人」を、救急隊員はひたすら助ける。彼らが支払うに足るお金を持っているかはまた別問題、出動命令は絶対なのだ。そこに、日本ではぐっと「率」が減るであろうギャングの抗争、薬物の過剰摂取、銃撃戦などで命を失いつつある人も加わって、とにかく救急隊員は忙しく動き、あちらに行きそうになっている彼らに「がんばれ」「こっち(現世)に戻ってこい」と呼びかけつつ、病院に向かう道中、救命措置をほどこす。

 物語の主軸となるのはベテラン救急救命隊員のラット(ショーン・ペン)と、その相棒を務める若手隊員のクロス(タイ・シェリダン)。描き方はクロス目線からのものが多いか。彼らにはもちろん、ひとりの男としての「日常」がある。が、どんなにロマンティックな予定を入れていても、命令が来れば、真摯そのものの救急隊員の顔となる。だがそんなテンションの高い日々を続けていると、こちらのフィジカルやメンタルまで弱ってくる。しかも救助にミスは、許されないのだ……。

 重い描写が続くが、ここまで甘味料を取り除いた作品を観る機会を持てたことを、むしろ観客はありがたく感じるのではないか。しかもこの物語は、「スリラー」仕立てでもあるのだ。監督はジャン=ステファーヌ・ソヴェール。

映画『アスファルト・シティ』

全国公開中

監督:ジャン=ステファーヌ・ソヴェール
原作:シャノン・バーク著「Black Flies」
出演:ショーン・ペン、タイ・シェリダン、キャサリン・ウォーターストン、マイケル・ピット、マイク・タイソン
2023年|英・米|英語|カラー|スコープサイズ|原題:ASPHALT CITY|125分|字幕翻訳:高山舞子|映倫:R15+
配給:キノフィルムズ 提供:木下グループ
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公式サイト
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