『俺たちに明日はない』『明日に向かって撃て!』『バットマン』等の“キャスティング”に関わった鬼才の実像に迫る

 誰にどう配役するか。それがキャスティング・ディレクターの仕事である。音楽業界でいえば、近いのはA&R(アーティスト&レパートリー)マンだろうか。あのひととあのひとをこの監督の作品で組み合わせたら、面白い化学反応が生まれるに違いない――などと考えながら、役者に声をかけ、スケジュールを調整し、頭の中でどんどんヴィジョンを鮮明にしていく。なんとやりがいのある役割なのだろう。

 この映画の主人公、マリオン・ドハティ(1923~2011)は「白人男性至上主義が根強く、役者を単純にタイプ分けしていた古いスタジオの配役方法から、ユニークで多彩なアンサンブルキャストへと移行する道筋をつけた」、その道のニューウェイヴといえる女性。アル・パチーノ、ロバート・レッドフォード、ダニー・グローヴァー、クリント・イーストウッド、ウディ・アレンらが異口同音に彼女の卓越したセンスをたたえ、生前のマリオンのインタビューもふんだんに登場。キリッとした語り口の中から、この才人が、女性蔑視、「ロサンゼルス人のニューヨーク人に対する冷やかさ」、活動初期にテレビの配役アシスタントをしていた頃に感じた「映画業界との壁」などと闘い、そのつど勝ち抜いてきたことが力強く浮かび上がる。アメリカのことわざ“エヴリバディ・ラヴズ・ア・ウィナー”を思い出した(日本には逆の意味を持つ“判官びいき”という言い回しもあるが)。

 監督・制作はトム・ドナヒュー、プロデューサーはケイト・レイシー。単なるマリオン称賛作品に終わらせることなく、「キャスティング・ディレクターを独立した職業として認めることはできない」という者の意見も、しっかりその理由と共に挿入しているあたりも個人的にはクレヴァ―な仕上がりだと思った。

 観終わった後、ドナヒュー監督の信条「どんな素晴らしい役も脚本に記されただけでは動きださず、有能なキャスティング・ディレクターと制作者と俳優の共同作業で息を吹き込まれる」を思い浮かべながら、余韻に浸りたいものだ。

映画『キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性』

4月2日(土)よりシアター・イメージフォーラム ほか全国順次“映画の見方が変わる”ロードショー

出演:マリオン・ドハティ、マーティン・スコセッシ、ロバート・デ・ニーロ、ウディ・アレン、クリント・イーストウッド、ロバート・レッドフォード、ダスティン・ホフマン、アル・パチーノ、メル・ギブソン、ジョン・トラボルタ、グレン・クローズ

監督:トム・ドナヒュー
製作:トム・ドナヒュー、ケイト・レイシー、イラン・アルボレダ、ジョアナ・コルベア
配給:テレビマンユニオン
配給協力・宣伝:プレイタイム
2012年/アメリカ/89分/カラー/DCP/原題「Cas,ng By」
(c)Cas,ng By 2012
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