歌わず、踊らず、じっくり見せるインド映画、しかも120分未満。それだけで私には衝撃的である。そしてこの『私たちが光と想うすべて』は、インド映画として初めてカンヌ国際映画祭グランプリ受賞のほか、100を超える世界の映画祭や映画賞にノミネートされ、25以上の賞を得たという。監督・脚本は、これが初長編だという気鋭のパヤル・カパーリヤー。主な舞台はムンバイ(旧ボンベイ)市である。

物語の中心となるのは、病院で働くふたりの女性。プラバは既婚で落ち着いた感じ、その夫はずいぶん前に外国に行ったまま音沙汰なし。アヌは見たところ、プラバより二世代くらい下か。若く元気なキャラクターで、親から見合い結婚を薦められているが、実はイスラム教徒の彼氏がいる。とはいえ、もちろんこれは許されるものではなく、広くバレたら、場合によっては身の危険にさらされる可能性もある。一見「同じ場所にいても、別々のグループにいそうな」ふたりの心の距離が近付くのは、住む家を追われて故郷へ帰る友?を?送りに、海辺の村に向かったことがきっかけ。新しい環境、見たことのない風景は、その人はもちろん、人間関係にも良い刺激を与える……それが活写された映画だと感じた。
いとおしい時間がゆっくり流れていくような中盤、ミステリー仕立てのラストパート、と、かなり緻密に計算された作品との印象も受けたが、目の前で繰り広げられる風景は基本的におだやかだ。出演はカニ・クスルティ、ディヴィヤ・プラバ、チャヤ・カダム等。
映画『私たちが光と想うすべて』
7月25日(金)より Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国公開
監督・脚本:パヤル・カパーリヤー
出演:カニ・クスルティ、ディヴィヤ・プラバ、チャヤ・カダム
原題:All We Imagine as Light/2024年/フランス、インド、オランダ、ルクセンブルク/マラヤーラム語、ヒンディー語/118分/1.66:1/字幕:藤井美佳/配給:セテラ・インターナショナル PG12
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