「この映画の主要なテーマの一つは“人に優しくすること”」。鬼才ランキン監督の描くシニカルにして心温まる世界、『ユニバーサル・ランゲージ』

 すさまじくユーモラスな作品だと思う。ペルシャ語やフランス語のネイティヴや、カナダ・ウィニペグと縁のある人なら、笑いっぱなしではなかろうか。だがこの「笑い」、大声でワハハワハハというたぐいのものでない。ついニヤリとしてしまい、口の端っこが予期せずあがって、なんとはなしに声が漏れてしまう、という類の「笑い」だ。ちょっとビタースウィートで、やたら余韻が残る。思い出し笑いを引き起こすタイプのコメディ映画なのだと思う。

 舞台となるのはカナダ・ウィニペグ。だがこのウィニペグには「架空の設定」が施されている。公用語はペルシャ語とフランス語、そしてイラン文化が強く反映されている。「もしこんなウィニペグがあったら」というアナザー・ストーリーであるとも考えられる。

 「オミッド少年が、暴れまわる七面鳥にメガネを奪われる」、「メガネをなくしたのは自分のせいではないのに、オミッドは学校の先生に“黒板の字を読めるようになるまで授業を受けさせない”と怒られる」、「同情した同級生の姉妹が凍った湖の中から大金を見つけ、そのお金でオミッドに新しいメガネを買ってあげようと思いつく」という、なんとなくふんわりした展開が、この映画のひとつのモチーフとしてある。人々は大真面目に、だがどこかおもしろおかしく暮らしている。マシュー・ランキン監督は「この映画の主要なテーマの一つは、人に優しくすること」と語っているという。だが優しさは、ときに相手には通じないし、エゴの空回りになることだってある。この映画に登場する人物は、なんとも優しく、そして人間臭い。

 私は「針のない時計」や「1D映画」といった発想に感嘆し、なんともいえない皮肉も感じて、観終えてからも思い出し笑いをした。出演はランキン監督のほか、ロジーナ・エスマエイリ、サバ・ヴェヘディウセフィ、ピローズ・ネマティ等。第77回カンヌ国際映画祭の監督週間部門では史上初の観客賞を受賞、オスカー国際長編映画賞のカナダ代表にも選出された。

映画『ユニバーサル・ランゲージ』

8月29日(金) 新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかロードショー

監督・脚本:マシュー・ランキン
脚本:ピローズ・ネマティ、イラ・フィルザバディ 撮影:イザベル・スタチチェンコ
音楽:パブロ・ビジェガス、アーミン・フィルザバディ
出演:ロジーナ・エスマエイリ、サバ・ヴェヘディウセフィ、ピローズ・ネマティ、
   マシュー・ランキン

2024年|カナダ|ペルシャ語・フランス語|89分|カラー|ヨーロピアンビスタ
5.1ch|原題:UNIVERSAL LANGUAGE|字幕翻訳:髙橋彩
配給:クロックワークス
(C) 2024 METAFILM

公式サイト
https://klockworx.com/movies/universallanguage/