ヒット映画『ラスト・タンゴ・イン・パリ』は、私にとっては音楽に浸るだけでおつりがくる作品だった。ガトー・バルビエリとオリヴァー・ネルソンという、ジャズ界の才人が音楽を担当しているからだ。ジャズ関連の仕事をする者にとっては、見ておくのが常識、口ずさめて当たり前なのが『ラスト・タンゴ・イン・パリ』という映画でありサウンドトラックなのだ。

この映画は、その『ラスト・タンゴ・イン・パリ』で大きな知名度を得て、ある意味そこで役者生命を半ば終えてしまったといってもいいマリア・シュナイダーの物語だ。といってもドキュメンタリーではなく、アナマリア・ヴァルトロメイがマリアに扮する。彼女がベルナルド・ベルトルッチ監督(ジュゼッペ・マッジョ)やマーロン・ブランド(マット・ディロン)に、いかに、唐突にひどいことをされていたか、人間の尊厳のようなものをボロボロにされていったか、時に目を覆いたくなるほどの痛々しさで描写されている。さらに救いようのないのが、マリアの父親がブランドの知り合いであったというところだ。つまり父親のおぞましさも、この映画ではわかる。
ドラッグを薦められても断っていたマリアが、いつしか注射針の手放せない体になっていくあたりも切ない。彼女は志半ばにして第一線を離れたが、ブランドは名優としての地位をさらなるものとし、ベルトルッチもマエストロ扱いされて長生きしたのだから、猛々しい。話の展開には、映画として誇張されているところもあるだろう。が、私は、もう、今後「作品と人間性は別物ですから」と言ったり書いたりするのは無理だなあと思った。
映画『タンゴの後で』
9月5日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開
監督・脚本:ジェシカ・パルー
出演:アナマリア・ヴァルトロメイ、マット・ディロン、ジュゼッペ・マッジョ、イヴァン・アタル、マリー・ジラン
2024年 / フランス / フランス語 / 102分 / カラー / 5.1ch / PG-12(暴力描写や性的描写が含まれます)/ 原題: Maria /英題:Being Maria / 日本語字幕:岩辺いずみ / 原作:「あなたの名はマリア・シュナイダー ―「悲劇の女優」の素顔」 (早川書房・刊) / 協力:CHANEL / 配給:トランスフォーマー
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