衝撃的な内容である。この物語の中で、何が消滅しているのか、というと、いろんなものがそれにあたるのだろうが……。物語中の子供の生み方は人工授精によるものがスタンダードであり、夫婦間の性行為はあってはならないものとされる。だからそんなことで子供を生んだ(子供が生まれた)ことがばれてしまったら、第三者がたちまち、ののしりにかかる。恋や性愛の対象は「家庭の外」の恋人か、二次元キャラなのだ。

だが、主人公の雨音は「両親が愛し合った行為の末」に生まれた。ヤバい方法で生まれてきた子供なのだ。それは大変なマイノリティであることを示す。しかも、母親に嫌悪を抱いていた。雨音にとって、母は「無法者」であるからだ。だから彼女は大人になって結婚してからも、夫とは性行為などするわけもなく、夫以外の人やキャラクターと恋愛をしてゆく。それが世の常識だからだ。女性だけが妊娠する世の中でもない。だがその日常が、夫一緒に移り住んだ実験都市・楽園(エデン)での日々によって変わってゆく。この「エデン」の、限りなく白い描写がまた心に残る。「ああ、白は無彩色だったんだなあ」と改めて思いながら、どんどん進んでいくストーリーに心の進行を合わせているうちに、「でもこれは決して物語の中にとどまるものではないはず。あと数百年地球が続くとしたら、むしろ、結構な確率で起こりうるかも」と思う心が加速した。ひとごとではない話である。
原作は芥川賞作家・村田沙耶香、監督・脚本は川村誠。主人公の雨音には蒔田彩珠、夫には栁俊太郎。ほか恒松祐里、結木滉星、富田健太郎、清水尚弥、松浦りょう、岩田奏、山中崇、眞島秀和、霧島れいからが登場する。
映画『消滅世界』
11月28日(金)より 新宿シネマカリテ ほか全国公開
原作:村田沙耶香『消滅世界』(河出文庫)
蒔田彩珠 栁俊太郎 恒松祐里 結木滉星 富田健太郎 清水尚弥 松浦りょう 岩田奏 落井実結子/山中崇/眞島秀和/霧島れいか
音楽:D.A.N.
主題歌:D.A.N.「Perfect Blue」
劇中アニメキャラクターデザイン:Waboku
監督・脚本:川村誠
(C)2025「消滅世界」製作委員会