この展開を読み切れるか!? 痛快エンタメ作『騙し絵の牙』、3/26公開

 息もつかせぬ展開だ。「ネタバレ厳禁」の映画は世にもたくさんあって、なかには「てやんでぇ、なにが厳禁でぇ、こちとら言いふらしてやりてぇぜ」的な作品にも、ごくたまに出くわす。だがこの『騙し絵の牙』に限っては、もう、絶対に違う。エッシャーのだまし絵が動き出したかのような、猛烈な疾走感をたたえた120分余りに、まっさらの心で出会い、ぶつかり、エンディングでカタルシスにたどりつくであろうお客様の表情が見たい。

 イントロダクションとして挙げておくべきは、“百数十年の歴史を持つ超大手出版社「薫風社」の次期社長を巡る権力争い”、“専務・東松の大改革”、“変わり者編集長や新人編集者・高野の立ち振る舞い”、“イケメン作家、大御所作家、人気モデルも巻き込んでの魑魅魍魎”あたりか。

 吉田大八(監督、脚本)、塩田武士(原作)、楠野一郎(脚本)、どれもエンタテインメントの超一流だけあって、見る者を乗せていくのが実に巧みだ。“あてがき”で変わり者編集長を演じる大泉洋を筆頭に、松岡茉優、國村隼など俳優陣も皆が適材適所という感じ、ポスト・ロックのさらに先を行くようなLITEの音楽も実にスリルに富んでいた。

 ぼくは雑誌の編集長だったことがあるので、大泉ふんする主人公・速見輝の考えや言い分にはすごく共感できる(あいにく自分はヒットとは無縁だったが)。ゲラに食らいつくようにアカを入れていく高野(松岡ふんする)の姿にも、「自分にもそんな経験があったな」と若き日を思い出した。床いっぱいにゲラを広げ、メシドキなど知るかとばかりに、ガシガシ校正していたあの頃。自分も本が好きで、文章が好きで、文字が好きで、編集に携わっていたのだった。

 まあそれはまったく個人的なことなのだが、「で、あなたはどうなのよ?」とスクリーンを飛び出して問いかけてくるような勢いが、この映画にある。パワフルに生きてるかい? 毎日わくわくしているかい? 「ああもちろんだよ、決まってるじゃないか」と答えられないひと(自分も含めて誰もがそうかもしれない)ほど、新鮮な空気を目いっぱい吸った気分になるはずだ。3月26日から全国ロードショー。

映画『騙し絵の牙』

3月26日(金) 全国公開
原作:塩田武士「騙し絵の牙」(角川文庫/KADOKAWA 刊)
監督:吉田大八 脚本:楠野一郎、吉田大八 音楽:LITE
出演:大泉洋 松岡茉優
   宮沢氷魚 池田エライザ / 斎藤工 中村倫也
   佐野史郎 リリー・フランキー 塚本晋也 / 國村隼
   木村佳乃 小林聡美 佐藤浩市
配給:松竹
(C)2021「騙し絵の牙」製作委員会

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