伝統か時代か? 風習からの脱却を望む姉妹の心の内を映像化した『ハウス・イン・ザ・フィールズ』いよいよ公開

 モロッコに行ったことがあるだろうか?

 ぼくはない。でも、少なくとも景気が良くてバリバリだった頃の日本で青壮年期を過ごしたひとの中には、それなりにいるはずだ。スペインの隣だし。

 では、モロッコの高アトラス南西地域に行き、アマズィーグ人と共に生活した日本人はどのくらいいるだろうか?

 おそらくいないと思う。

 映画が偉大なのは、時間も距離も飛び越えた疑似体験を、今この場所にいながらにして観る者にもたらしてくれることだ。4月9日(金)からアップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開される『ハウス・イン・ザ・フィールズ』は、自分をモロッコの高アトラス南西地域やアマジグ人に近づけてくれた。鮮明な画像と音質からは、森の匂いや食べ物の香りまで漂ってきそうだ。

 監督のタラ・ハディドは、建築家ザハ・ハディドの姪。主人公はアマズィーグ族の姉妹で、妹は弁護士を夢見ている。ある日、姉が学校を辞めて結婚することになる。だがこの結婚、本人の意志とは関係がない。姉は「怖いけど、義務だから」と言う(このセリフは、妹に向かって言っているというよりは、現地のしきたりを世界の観客に説明するニュアンスがあるのではと思う)。姉妹の会話の中に登場する「女は抑圧されてきた。男と同じ権利があってしかるべき」という一節は、この映画も言うまでもなく現代地球の物語なのだということを知らしめてくれる。

 始まって間もなく登場する3弦楽器により弾き語り(米国のブルースと直結させるひともいるはずだ)、乳しぼりや編み物や料理の風景など、目を見張りたくなるパートもいっぱい。クライマックスを飾る歌・楽器・ダンスが入り乱れての光景は、あたかもジャム・セッションである。

映画『ハウス・イン・ザ・フィールズ』

4月9日(金)よりアップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
出演:ハディージャ・エルグナド、ファーティマ・エルグナドほか
監督・撮影:タラ・ハディド 字幕翻訳:松岡葉子 配給・宣伝:アップリンク
(モロッコ、カタール/2017年/86分/1:1.85/アマズィーグ語/原題:TIGMI N IGREN)
(C)2016 Tara Hadid/Kairos

【物語】
弁護士を夢見る少女ハディージャとその姉のファーティマは、モロッコの山奥で暮らすアマズィーグ人の姉妹。ある日、ファーティマが学校を辞めて結婚することになる。「結婚するのが怖い。だけど義務だから」と胸のうちを語るファーティマ。ハディージャは、大好きな姉と離ればなれになってしまう寂しさ、そして自分も姉のように学校を卒業できないかもしれないという不安を募らせていく。2人の揺れ動く想いをよそに、その日はやって来て……。

アフリカ北西部に広大に走るアトラス山脈の一部、モロッコの高アトラス南西地域。そこに住むアマズィーグ人は、信心深く、伝統を重んじ、自然の恩恵を受け、数百年もの間ほとんど変わらない生活を送っている。世界的建築家ザハ・ハディドを叔母に持ち、写真家としても活躍するタラ・ハディド監督は、本作の製作にあたり、7年にわたって現地に通い、彼らと寝食をともにしたという。雄大なアトラス山脈の四季折々の自然の中で、被写体に寄り添った親密な映像は、失われつつある生活様式や文化を記録しながら、人々の内なる想いをも紡いでいく

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