60年代に世界を魅了した「カトリーヌ・スパーク」に今、はまるチャンス。傑作4本が特集上映

 ファッション、色彩、音楽も含めて、ポップな1960年代ヨーロッパの面白味に浸ることができる特集上映。それが「カトリーヌ・スパーク レトロスペクティブ」だ。

 カトリーヌは1945年、フランスのパリに生まれた。父親が『嘆きのテレーズ』など歴史的名画に関わるシナリオライターだったり、伯父がベルギーの外務大臣だったりする、映画的にも経済的にも地位的にも恵まれた家庭に育ち、13歳の時に親に無断で映画デビューを果たした。17歳で俳優ファブリッツィオ・カプッチと結婚(すぐ破局)、前後してイタリア国籍をとっている。

 ぼくがカトリーヌ・スパークの名を知ったのは90年代、いわゆる渋谷系やサバービアの流れによって。といっても当時はヨーロッパの昔の映画などなかなか見る場がなく(YouTubeやネットフリックスはおろかDVDという媒体もなかった)、最初にカトリーヌの表現に接したのは音楽、つまり彼女自身が歌った「夜は盗みのために」だったことを覚えている。5月21日(金)から東京・ヒューマントラストシネマ渋谷で上映されるのは、次の4作品(すべてイタリア映画、『禁じられた抱擁』のみフランスとの合作)。

 『狂ったバカンス』(ルチアーノ・サルチェ監督、1962)は、“美少女に寄せるオッサンの恋”が滑稽さともの悲しさを運ぶ一編。妻と別居中の39歳、アントニオが、とあるきっかけで男女混成、不良味のある若者グループと出会う。太陽族のようなものを思い浮かべてもらえばいいか。そしてアントニオは、カトリーヌ扮するフランチェスカに一目ぼれする。エンジニアとしてそれなりの地位を得た男が必死にボキャブラリーを探しながら口説き(他の若者に冷やかされつつも)、オッサン臭さを少しでも減らすために長年蓄えていたヒゲをそり———-。

『狂ったバカンス』LA VOGLIA MATTA
(C)Licensed by COMPASS FILM SRL – Rome – Italy. All Rights reserved.

 小悪魔的なキャラのフランチェスカは、別に誘いを断るわけではない。かといって人生経験豊かなアントニオはどこかで「うまくいくわけがない」と思っている節があるようにも感じられるのだが、うまくいく恋なんて恋じゃないのだ。そういう歌もあったではないか。音楽はエンニオ・モリコーネ。

 『太陽の下の18才』(カミロ・マストロチンクェ監督、1962)はナポリ湾に浮かぶリゾート地、イスキア島を舞台にしたコメディといえる。カトリーヌ扮するフランス人ニコル・モリノと、ジャンニ・ガルコ扮するイタリア人ニコラ・モリノが同一人物と勘違いされて、ホテルの同じ部屋にブッキングされたことからドタバタが始まる。ほか、ドイツ人主婦に寄せるイタリアの若者の無鉄砲な恋も描かれていて、こちらの展開にもわくわくさせられた(若者はわざわざドイツ語を、別のドイツ語のしゃべれる人に教わりに行くのだ)。

『太陽の下の18才』DICIOTTENNI AL SOLE
(C)Licensed by COMPASS FILM SRL – Rome – Italy. All Rights reserved.

 空も海も含めてすこぶる色彩豊か、ツイストを踊る場面もふんだんに挿入されている。男女で踊るという点では、ツイストは従来のダンスと変わらない。が、一度も互いの体に触れないという点で画期的だった(だから日本でも流行したのだろう)。またこの映画からは2曲の国際的ヒットが生まれた。青山ミチやムーンライダーズもカヴァーした「ゴーカート・ツイスト」(邦題は複数あり)と、南アフリカのタウンシップ・ジャズに通じるタテノリのスウィングを感じさせる「ツイストNo.9」(大滝詠一ファンならご存じであろう伝説のロカビリー歌手、ブルドッグ・滝の持ち歌でもあった)である。音楽はエンニオ・モリコーネ。

 『禁じられた抱擁』(ダミアーノ・ダミアーニ監督、1963)でのカトリーヌは、セシリアという奔放な女性を演じる。彼女はベテラン画家のモデルをしていたが、ひょんなことから、若手抽象画家のディノと知り合う。その若手画家は親と同居していて経済的にも裕福、いささかマザコンの気がある。ディノとセシリアは「割り切った関係」を続けていくが、あまりの割り切りの良さ、セシリアの小悪魔ぶりが、ディノの心をかき乱す。猫、犬の登場タイミングも良い。音楽はルイス・エンリケス・バカロフ(『イル・ポスティーノ』等のそれも担当)。

『禁じられた抱擁』LA NOIA
(C)1963 Compagnia Cinematografica Champion – Les Films Concordia. All rights reserved.

 『女性上位時代』(パスクァーレ・フェスタ・カンパニーレ監督、1968)の色合い、オルガンを生かした軽やかな音楽、その音楽を入れるタイミング、意表を突いたストーリー、鏡を効果的に使った構図、なめるようなカメラ・ワークには引き込まれっぱなしだった。もちろんカトリーヌのファッションも冴えわたっていて(袋を頭からかぶって肩で止めるようなジャケットが素晴らしかった)、彼女に翻弄される男優陣も個性豊かだ。カトリーヌは、20歳にして大富豪(独特の性的嗜好を持っていた)の未亡人となってしまった、男性におんぶしてもらうのが大好きな女性を演じている。武智鉄二や増村保造ワークスをお好みの方にもピンと来る瞬間が多々あるはずだ。原題“La Matriarca”とはかなりかけ離れたニュアンスであるらしいが、センセーショナルな邦題も秀逸といえよう。音楽はアルマンド・トロヴァヨーリ。

『女性上位時代』LA MATRIARCA
(C)1968 SNC (GROUPE M6)

 カトリーヌは、吉永小百合、本間千代子、松原智恵子と同い年だ。彼女たちが高度成長期の日本映画で清廉潔白に青春しているとき、地中海では身長173㎝のカトリーヌが伸びやかな肢体で小悪魔していたのである。

特集上映『SPAAK! SPAAK! SPAAK! カトリーヌ・スパーク レトロスペクティブ』

5月21日(金)より ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
●上映作品
 『狂ったバカンス』
 『太陽の下の18才』
 『禁じられた抱擁』
 『女性上位時代』
●提供:キングレコード
●配給:ザジフィルムズ

http://www.spaak2021.com/