女性の目を通して見た、「モノづくりの熱血物語」。文部科学省選定作品『おしょりん』

 日本製メガネの95パーセントが福井県で生産されているとは、私はここで初めて知った。なぜ福井なのか? その始まりはいつだったのか? 等が、映画を観ることによってこちらのからだに刻み込まれてゆく。

 舞台となるのは明治37年、福井県足羽郡麻生津村。1904年、日清戦争勃発の年である。農作業主体の村だったが、豪雪地帯のため冬は収入に乏しくなる。では、どうするか。大阪から村に戻ってきた増永幸八には、一つのアイデアがあった。

 「眼鏡」を生産してはどうか。視力の弱い者もこれをかければボヤけたものがクリアに見えるし、業界的にも、本格的な活字時代がこれからやってくるときに、いっそう業績の伸びを期待できる。いわば大胆な先行投資を呼びかけたわけだが、そもそも当時の福井には「眼鏡」という概念がほぼ伝わっていないので、そこをどうするかも幸八の考えどころだった。が、ためしに視力の弱い子供が眼鏡を渡してみたところ、それをかけて大喜びする姿に接し、兄・増永五左衛門は、弟と組むことを決心した。

 「眼鏡」と一言で表せるとはいっても、つまりはレンズ、つる、鼻パッド、丁番やらの複合品である。その「複合品」がいかに編集され、こんにちの形に近づいていったか、どのように高い評価を得るようになったかも、この映画でしっかりと見ることができる。が、この映画の主役は兄弟ではなく、あくまでも五左衛門の妻・むめである。「熱い、モノづくりの物語」が、女性の視線で、おだやかに描かれているのが新鮮だ。

 出演は北乃きい、小泉孝太郎、森崎ウィン等。藤岡陽子の同名小説を、児玉宜久監督が映画化した。題名の「おしょりん」とは、田畑を覆う雪が固く凍った状態を指す福井の言葉であるという。10月20日から福井先行ロードショーされていた作品が、11月3日から全国ロードショーになるのは喜ばしい。文部科学省選定作品(青年、家庭向き)。

映画『おしょりん』

11月3日、角川シネマ有楽町ほか全国順次公開

<キャスト>
北乃きい 森崎ウィン
駿河太郎 高橋愛 秋田汐梨 磯野貴理子 津田寛治 榎木孝明 東てる美 佐野史郎 かたせ梨乃 小泉孝太郎

<スタッフ>
監督:児玉宜久 原作:藤岡陽子「おしょりん」(ポプラ社) 脚本:関えり香 児玉宜久 エンディング曲:MORISAKI WIN「Dear」(日本コロムビア) 製作総指揮:新道忠志 プロデューサー:河合広栄 ラインプロデューサー:川口浩史 撮影:岸本正人 照明:桑原伸也 録音:林昭一 整音:瀬川徹夫 記録:目黒亜希子 編集:村上雅樹 美術:黒瀧きみえ 装飾:鈴村高正 衣装:田中洋子 ヘアメイク:西村佳苗子 助監督:宮﨑剛 制作担当:相良晶 制作プロダクション:広栄 トロッコフィルム 配給:KADOKAWA 製作:「おしょりん」制作委員会
(C)「おしょりん」制作委員会

公式サイト
https://movies.kadokawa.co.jp/oshorin/