真実はどこにある? 人間の性に向き合った快作『インヘリタンス』

 前半、いろんなところからいくつもの鮮烈な糸が垂れてきて、それが次第に絡み合って、後半になると一気にほどけ、人間の心の核のようなものがうかびあがる。人間の根底に肉薄するようなセリフやシーンの数々。ねたみ、そねみ、憎しみ、おごり、うその厚塗り、優越感、我を忘れたように私利私欲へ走る姿……すがすがしいほどに、人間の性、悪なり!と叫ばせてくれる一作だ。

 物語はニューヨークの政財界に絶大な影響力を持つ銀行家の急逝から始まる。彼の遺産は妻と息子(政治家)、娘(地方検事)へと相続された。さらに娘には「真実は掘り起こすな」という遺言とともに鍵が託された。その鍵は、娘自身一度も知ることがなかった地下室への扉を開けるためのものだった。地下室には男が監禁されていた。その状態になってもう30年間になるという。男が語る銀行家像は、娘が持っていたイメージ、および社会がつくりあげていた彼(父親)に対する、清廉な大物というイメージとは著しく異なっていた。どちらが本当の父親像なのか。しかしこの苦悩は娘を巻き込むトラブルの序章にすぎないのだから本当に目が離せない。

 主人公の地方検事役にリリー・コリンズ(『白雪姫と鏡の女王』など)、地下に囚われた謎の男を演じるのはサイモン・ペッグ(『ミッション:インポッシブル』シリーズなど)。ちなみにインヘリタンスとは“継承”という意味。ものすごく意味深、いかようにも深読みできるタイトルを、よくつけたものだと思うし、場違いな邦題にせず、これをそのまま生かした日本側スタッフのセンスもたたえたい。

映画『インヘリタンス』

6月11日(金)より、新宿武蔵野館ほか 順次公開

監督:ヴォーン・スタイン『アニー・イン・ザ・ターミナル』
脚本:マシュー・ケネディ
編集:クリスティ・シメック
音楽:マーロン・エスピノ
撮影:マイケル・メリマン
製作:リチャード・バートン・ルイス、デヴィッド・ウールフ、アリアンヌ・フレイザー
配給:クロックワークス
2020年/アメリカ/カラー/111分/シネマスコープ/英語/5.1ch
英題:INHERITANCE/レイティング:G/日本語字幕:北村広子

出演:リリー・コリンズ、サイモン・ペッグ、コニー・ニールセン、チェイス・クロフォード、パトリック・ウォーバートン、マルク・リチャードソン、マイケル・ビーチ

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▼公式サイト
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▼予告映像
https://youtu.be/9MplV5O1pZ8