希望の光は誰にも奪えない。トランスジェンダーのリアルを描くブラジル映画『私はヴァレンティナ』

 2020年公開のブラジル映画が我が国でロードショーされる。それが4月1日から東京・新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサほか全国順次公開の『私はヴァレンティナ』である。監督・脚本はカッシオ・ペレイラ・ドス・サントス。『秘密の学校』が「ショートショートフィルムフェスティバル&アジア2009」のオーディエンス・アワードを受賞した気鋭だ。

 主人公の出生届の名は、ラウルという。つまり男性として生まれた。だがラウルはトランスジェンダーであり、引っ越しと転校を機に、“ヴァレンティナ”という通称名で通学したいという思いを強くした。そのためには父親の許可がいるのだが、あいにく彼は蒸発中。その父親をどう探し出すか、が、ポイントのひとつとの印象を受けた。

 もうひとつのポイントは、“生まれてきたときの性別と自らが考える性別のズレをどう克服していくか”。ヴァレンティナは男性からナンパされることもあり、あるパーティでは見知らぬ男性に襲われてしまう。その男は青ざめ、怒る。“こいつ、男じゃないか!”とばかりに。責められるのは強姦野郎であるはずなのに、脅迫やSNSの精神的虐待に遭うのはヴァレンティナのほう。しかし彼女には勇気ある良き仲間がいた(未婚の母や同性愛者もいる)。友情の強さ、信念を持つことの大切さも、映画の中に深くこだまする。主演のティエッサ・ウィンバックは実際にトランスジェンダーであるという。

 それにしてもポルトガル語はなんと音楽的なのか。そう思いながらも見てしまった。ボサノヴァやMPB(=音楽ジャンルの一つ)を聴いて知らず知らずのうちに覚えた単語がふと聞き取れると、映画に感動しているのとは別の部位のからだ(音楽細胞と言っていいか)がヴィヴィッドに反応するのをやめられない。

 サン・パウロ国際映画祭2020観客賞・審査員特別賞受賞、フェスティバル・ミックス・ブラジル2020観客賞・審査員賞受賞、L.A.アウトフェスト2020審査員賞受賞、シアトル国際映画祭2021審査員特別賞受賞作品。

映画『私はヴァレンティナ』

4月1日(金)より新宿武蔵野館 ほか全国順次公開

監督・脚本:カッシオ・ペレイラ・ドス・サントス
出演:ティエッサ・ウィンバック、グタ・ストレッサー、ロムロ・ブラガ、ロナルド・ボナフロ、マリア・デ・マリア、ペドロ・ディニス
配給:ハーク
配給協力:イーチタイム
後援:ブラジル大使館
【2020年/ブラジル映画/ポルトガル語/95分/スコープサイズ/カラー】
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