自由を信条とした医学博士と、その息子の物語。新たな「ラテン映画」の誕生との呼び声も高い一作『あなたと過ごした日に』

 現代スペイン語文学を代表する精鋭作家の父親は、庶民のために命を捧げる医学博士だった……。

 ノーベル賞作家のマリオ・バルガス・リョサが称賛する作家、エクトル・アバド・ファシオリンセのベストセラー小説が原作(発行部数30万部以上、世界20ヵ国以上で発売)。父親であるエクトル・アバド・ゴメス博士(人権援護家、民主主義者、作家としても知られている)の交流を描いている。

 舞台は主に1970~80年代のコロンビアの都市「メデジン」。経済格差は限りなく大きく、貧しければ貧しいほど衛生観念も希薄で、病気がはびこり、医療を受けるチャンスもないまま多くの命が失われる状況が続いている。ゴメス博士は「手洗い」の大切さを説き、貧しい地域の子供たちのために「Future for Children」というプロジェクトを立ちあげた。

 博士の信条は“自由であること”。「経済的な資源が、戦争や軍事費ではなく、大多数の飲料水のために使われるように」という考えの博士が、既得権益層にどう思われていたのかは、推して知るべし。娘の一人が(おそらく政治が健全ならば直るはずだったかもしれない)大病になったこともあり、博士は、少しでも庶民の生活を良くしたいと政治活動にものめりこんでいく。戒厳令、秘密警察、拉致、拷問の国で、丸腰のまま自由を訴えていくことは無謀に近い。上級層からの、実に姑息ないやがらせもある。だが、博士の心は止められなかった。

 ゴメス博士の熱血ぶりに、こちらの目と心は思いっきりもっていかれたが、作者ファシオリンセはただ「父よあなたは偉かった」と描いているわけではない。子供にはたいがい反抗期というものがあるし、「親がとにかくウザい」と感じられる時期もあるだろう。それを乗り越えて歳月を重ねた親と子が、ふたりの男として時を共有していく。いつしか少年は医者を目指し、父の背中を追うようになっていた。

 ファリシオンセ役はニコラス・レジェス・カノ(少年時代)、フアン・パブロ・ウレゴ(青年時代)が好演。ゴメス博士はゴヤ賞を二度獲得したハビエル・カマラが演じる。監督は『ベルエポック』でアカデミー賞外国語映画賞に輝いたフェルナンド・トルエバ。モノクロとカラー画像の巧みな切り替わり、リズム感の良いカメラ・ワークも印象に残る。そういえばトルエバはかつて、ティト・プエンテや、ベボとチューチョのバルデース親子らをとりあげた“史上初のラテン・ジャズ・ドキュメンタリー映画”『カジェ54』を監督した人物でもあった。7月20日より東京都写真美術館ホールで公開。

映画『あなたと過ごした日に』

7月20日(水)より東京都写真美術館ホールほか全国順次公開

出演:ハビエル・カマラ、ニコラス・レジェス・カノ、フアン・パブロ・ウレゴ、パトリシア・タマヨ
監督:フェルナンド・トルエバ 脚本:ダビド・トルエバ 撮影:セルヒオ・イバン・カスターニョ 編集:マルタ・ベラスコ 音楽:ズビグニエフ・プレイスネル 後援:コロンビア共和国大使館、インスティトゥト・セルバンテス東京 字幕翻訳:積田美也子 配給・宣伝:2ミーターテインメント(2MT) 配給協力:クレプスキュール フィルム 宣伝協力:HaTaKaTa Webプロモーション:AMPED 原題:El OLVIDO QUE SEREMOS
【2020年/コロンビア/スペイン語・英語・イタリア語/モノクロ・カラー/シネスコ/5.1ch/136分】
(C) Dago Garcia Producciones S.A.S. 2020

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