フランス初のレストランは、こうして生まれた。「料理に賭ける庶民の熱情」が成し遂げた物語

 フランスにはトランジット(乗り換え)で立ち寄ったことしかないが、アートと美食の国であろうことは容易に想像がつく。

 この映画『デリシュ!』は、フランスで初めてレストランを作った男を題材にした作品だ。1789年上旬、つまりフランス革命前夜までに、料理人が経験した日々が綴られる。日本は、いわゆる“寛政の改革”の頃である。電気もガスも水道も通っていない時代だ。主人公のマンスロンは宮廷料理人の職を得ていたが、あるとき、創作料理「デリシュ」にジャガイモを使ったことが公爵のプライドに触れて解任される。地中に埋まっているような、そんな下品なものを我々上級に食わせるのか、なんと失礼な、ということだ(当時は、天に近いところで収穫される食べ物ほど神聖とされた)。

 賞味すらせず、当然ながら料理人の苦労や創意工夫に思いを寄せることもない、それ以前に人間の餌食になる動植物にリスペクトのかけらすらない、傲慢そのものの行為は、これがフィクションであろうが、400年前の話であろうが、こちらを腹立たせるに充分。食べられるものはなにか、安全なものはなにか、その選別だけでもマンスロンは命がけだったはずなのだ。

 心が折れた彼は料理から遠ざかろうとしたが、師事したいという女性ルイーズが訪ねてきて、ストーリーに人間味が増してくる。やっぱりマンスロンは料理が好きだったし、今度は笑顔で食べてくれる人にふるまいたいと思ったわけだ。

 身分差のあるものどうしが同じ場所で食事することなど想像もできなかった時代だったが、「不特定多数のひとに料理を有料で提供する場所があってもいいのではないか」、そう決めてからのマンスロンとルイーズの息はぴったり。筆者は庶民のエモーションにエールを送り、自らの裸の王様ぶりに直面してしまう「えらいひとたち」に苦笑させられた。自然光やローソクの輝きを生かした画面作りは静謐、しかも奥行きがある。

 脚本家としてのキャリアも豊かなエリック・ベナールが監督し、マンスロン役にはグレゴリー・ガドゥボワ、ルイーズ役には『記憶の森』でセザール賞主演女優を受賞したイザベル・カレが扮する。9月2日よりTOHOシネマズシャンテほか全国公開。

映画『デリシュ!』

9月2日(金)よりTOHOシネマズシャンテほか全国公開

<キャスト>
グレゴリー・ガドゥボワ、イザベル・カレ、バンジャマン・ラベルネ、ギヨーム・ドゥ・トンケデック

<スタッフ>
プロデューサー:クリストフ・ロシニョン&フィリップ・ボエファール
監督:エリック・ベナール
脚本:エリック・ベナール、ニコラ・ブークリエフ
撮影監督:ジャン=マリー・ドルージュ
音楽:クリストフ・ジュリアン
配給: 彩プロ2020/フランス・ベルギー/フランス語/カラー/シネマスコープ/5.1ch/112分 原題:D?LICIEUX 映倫G
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