親元を離れてひとりで亡命した、15歳の体操選手の物語。数々の賞に輝く力作『オルガの翼』が日本上映

 第74回カンヌ国際映画祭SACD賞、第25回スイス・フィルム・アワード最優秀作品賞ほか数々の栄誉に輝く映画『オルガの翼』(監督:エリ・グラップ、脚本:エリ・グラップ、ラファエル・デプレシャン)が9月3日より東京渋谷ユーロスペースにて公開される。

 舞台は2013年、ウクライナのキーウ。主人公のオルガは体操の欧州選手権出場を目指してトレーニングする15歳の少女。だが母がヤヌコーヴィチ大統領の汚職を追及するジャーナリストだったため、彼女も命を狙われることになる。結果、ウクライナを離れて、父の故郷スイスへ。母と離れ離れになりながらも、体操の技を磨いてゆくのだが、欧州選手権に出場するためにはウクライナの市民権を手放さなければならなくなった。彼女が「ユーロマイダン革命」を知るのは、スイス移住のあとだ。

 母親の身を案じ、母国を案じ、母を批判する祖父の声に心を痛め……そんな毎日のなかでオルガにひとすじの救いがあるとすれば、やはりそれは体操ということになるのだろう。が、チームの中では言葉もロクに通じず、人間関係の齟齬も生まれる。私が私がという感じでピリピリしている中に飛び込んだオルガは、やはり“ウクライナからやってきたよそ者”なのだ。大会で、亡命せずにウクライナに残った旧友サーシャと久しぶりに出会えたことは、彼女をどれだけ活気づけたことだろう。

 傷口に塩をすりこむかのような現実がクールに描写されるなか、ふと描かれる、人の心の暖かさ。それは見る者を安らがせるに充分だ。オルガ役のアナスタシア・ビジャシキアはプロ・アスリートで、演技経験はゼロだったという。が、それも監督の意図だったのではないか、と筆者は考える。彼女は本当に真摯に、誠実に、オルガという人物に心を寄せながら、各シーンに向き合った。そう断言したくなるほど、豊かなシンセリティに貫かれているのだ。

映画『オルガの翼』

9月3日(土)より、渋谷ユーロスペースほか全国順次公開

<出演>
アナスタシア・ブジャシキナ、サブリナ・ルプツォワ

<スタッフ>
監督:エリ・グラップ
提供:パンドラ+キングレコード
配給:パンドラ
2021年/フランス=スイス=ウクライナ/ウクライナ語・ロシア語・仏語・独語・伊語・英語/カラー/90分/原題:OLGA
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