同性婚が認められない国で、どう生きていくか。かつてなかったに違いない類の“家族ドキュメンタリー”『二十歳の息子』

 『二十歳の息子』は、正直言って、自分とはまるで接点のなさそうな人生を歩んできたひとの物語なのだが、かといって「ひとごと」として突き放すことができない。ストーリーが進行するごとに、ふたりの「真摯さ」が強く伝わってきて、心に爪痕を残す。彼らは真剣に自分の人生を生きている。そのきまじめさが、セクシャリティの壁を飛び越えて、こちらのエモーションを揺るがすのだ。

 ひとりめの主人公は、児童養護施設の子どもたちの自主支援に取り組んでいる40歳の男性。もうひとりの主人公は、両親の顔はおろか家族で過ごすという経験もないまま、児童養護施設で育った青年。事件を起こして拘留されている。40歳の男性は彼を立ち直らせたいと思い、同時に恋心もあったのだろうが、日本では同性婚が許されていないので、養子縁組という形をとる。『二十歳の息子』というタイトルは、ここからきている。男性の両親も暖かく青年を迎え入れ、やがて男性と青年の同棲が始まるのだが・・・。

 愛し合っているシーンや、縁組をするにあたってのさまざまな過程などについては、潔くオミットされている。それによって抽象度が増し、観る者は想像の翼をいっそう伸ばす必要に迫られる。そもそも青年は同性愛オンリーの指向なのか、40歳男性の振る舞いには彼を愛するがゆえのエゴもあるのではないか? じっくりと考えつつ、画面に立ち向かいたい作品だ。監督・島田隆一、出演・網谷渉、網谷勇気。

映画『二十歳の息子』

2023年2月11日(土)ポレポレ東中野にて公開 以降全国順次

監督:島田隆一
製作:JyaJya Films
配給:ブライトホース・フィルム
文化庁「ARTS for the future!」補助対象事業
2022年|日本|86分|カラー|16:9|DCP|5.1ch|ドキュメンタリー
(C)JyaJya Films

公式サイト
https://hatachi.brighthorse-film.com/#modal