「もう誰も信じられない、自分だけが助かればいい」という気持ちにさせる異常事態、それが戦争だ。『未来は裏切りの彼方に』公開へ

 嘘、裏切り、保身、デマのループ状態に誘い込まれる。戦争中という一種特殊な状況が、登場人物の心を邪悪な方面に駆り立てているのか、それともこの嘘まみれの姿が人間というものの本性なのか。深く考えさせられる一作だ。

 舞台となっているのは1944年、つまり第二次世界大戦終了前年のスロバキア第一共和国。妻帯者の兵士・ジャックは同僚が娼館に連れだって精力を発散している間、脱走を試みる。それはひとまずうまくいき、田舎の村に引っ越していた妻が務めていた工場に雇ってもらうのだが、間もなくこの工場の経営者が新妻・キャットを迎えたことにより空気が一変。なぜならこのキャットは、ジャックが脱走する前に肉体を交えた娼婦にほかならなかったからだ。

 娼婦が経営者に「ジャックは脱走兵だ」と知らせるのが早いか、脱走兵が経営者に「あなたの妻は娼婦です」と知らせるのが早いか。どちらにしてもそうした発言が飛び出すことは双方の生命にかかわることだから、何とも不安定な、虚々実々の取引がキャットとジャックの間で行われる。しかしふたりとも既婚者だから、近づけば近づくほど配偶者からの疑いの視線は深まる。ナチス・ドイツもしっかりからんでくる異常な世の中で、平和に生き延びていくにはどうしたらいいのか。この2組のカップルに限らず、登場人物がいかにその方法を見つけ出すのか、あるいは見つけ出せず破滅していくのか、ここが作品の大きな見どころとなる。

 スロバキア人監督のペテル・マガートは、これが長編英語版デビュー作(なぜ英語なのだろう)。デブリス・カンパニーの舞台劇「EPIC」をベースに、北アイルランドの脚本家ユエン・グラスが手がけたオリジナル脚本を映画化したという。4月14日から全国順次公開。

映画『未来は裏切りの彼方に』

4月14日(金)よりアップリンク吉祥寺、
4月15日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開

<キャスト>
アリシア・アグネソン、ブライアン・キャスプ、ラクラン・ニーボア、クララ・ムッチ、ヤン・ヤツクリアク、クリスティーナ・カナートヴァー、アビゲイル・ライス、エイミー・ラフトン

<スタッフ>
監督:ペテル・マガート
脚本・原案:ユエン・グラス
脚本:ルツィア・ディッテ、ミハエラ・サボ
プロデューサー:ズザナ・ハディモヴァー、ブラニスラヴ・フルピーク
2019年/スロバキア/98分/カラー/シネマスコープ/5.1ch/英語/原題:“Little Kingdom”
配給:NEGA
(C)2020littlekingdom

公式サイト
https://littlekingdom.jp/