人生は偶然の集積なのかもしれない。あのとき、あの人に出会っていなかったら。もしもあの電車ではなく、次の電車に乗っていたら。なにがきっかけで、どう変わるかわからないのが人生だ。
5月5日から全国公開される『ジュリア(s)』は、そんな“生の真理”(せいのしんり)的なものを、ユニークな手法で描き出す一作。タイトルについている(s)は、複数形を示すのか。ちょっとしたタイミングや出会いのズレで、ひとはいともたやすくパラレルワールド(ワールズ)の住人となる。そこがしっかり描き出されているのである。
ジュリアは、ピアノの才能に恵まれた女性。ベルリンの壁が崩壊された頃(1989年)には若さを満喫していたが、時は2052年、80歳を迎えた彼女は自分の人生に思いを馳せる。「あのとき私はああしたが、もしこうしていたら、私の人生はどうなっていただろう?」 いつしかジュリアは、ひょっとしてあり得たかもしれない4つの生涯(それぞれパリ、アムステルダム、ニューヨーク、ベルリンが舞台)を思い描き、その「タラレバ」の世界に、我々観る者を引き込んでいく。
海外に出て行くためのパスポートを落とす/落とさない、恋が成就する/しない、事故に遭う/遭わない、ピアニストとして名声を博す/博さない、などなど。そのときどきの、ふとした、決断と呼べそうにもない行動ひとつが、実はジュリアの未来の鍵を握る重要なファクターであったりする。ただ、人生がどう転ぼうが、ジュリアの成長、成熟、老いはめぐってきて、親は年老い、旅立つ。どこをどうしても、そこは変わらない。そして、必ず、嬉しくなるような「ひととの出会い」がやってくる。
「ピアノ調律師」でセザール賞短編映画賞を受賞したオリビエ・トレイナー監督による長篇作品は、これが初めてとのこと。ジュリア役には「ブラックボックス 音声分析捜査」のルー・ドゥ・ラージュが扮している。
映画『ジュリア(s)』
5月5日(金・祝)シネマート新宿ほか全国公開
配給:クロックワークス
(C)WY PRODUCTIONS-MARS FILMS-SND-FRANCE 2 CINEMA