孤独、劣等感、絶望を超えたその先にあるものとは? 重厚な再生物語『風のゆくえ』

 倉庫で働く青年「真司」にとっては、ひとりが日常だった。幼少時を養護施設で育ち、誰にも心を開かず、ノートに自分の気持ちを書くことで毎日を過ごしていた。

 その「真司」が、「茉耶」と出会う。はじめて自分を愛してくれる女性。だが、これまでの歳月を徹底的に一人で毎日を過ごしてきた「真司」には、戸惑いが残る。で、その戸惑いを克服できたのか、といえば、否である。「真司」は唐突気味に「茉耶」に別れを切り出すのだが、登場人物のエモーションが観る者のエモーションに体当たりしてくるような凄みを体感させてくれるのは、ここから。「真司」はやはり血の通った人間であり、それまで、その潜在能力が解凍されていなかっただけなのだ。

 「孤独」と「劣等感」を持っている者であれば、尋常ではない手ごたえを感じる映画であるはずだ。私も観終えた後、しばらく、日常に戻れなかった。台北ロケの光景も見どころだ。

 出演は嶺豪一、斎藤千晃ほか。監督・脚本の石井慎吾は「僕自身の経験をもとに脚本を書き起こしました」と述べており、それもこの映画の深みにつながっている、と書いても的外れではないはずだ。

映画『風のゆくえ』

8月5日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開

監督・脚本:石井慎吾

出演:嶺豪一、斎藤千晃、豊満亮、小林由來、武田真悟、仙洞田志織、神野陽子、米元信太郎、針ヶ谷功明、他

撮影:古屋幸一 録音:南川淳 台北録音:空井大地 助監督:木下雄介 美術:吉岡晶 ヘアメイク:香理 スチール:佐々木綾子 応援:池原大也、坂口天志、磯 龍介 台北コーディネーター:江依紋 編集:足立佑安、立薗駿 サウンドデザイン:光地拓郎 音楽:今村左悶 音楽助手:今村淳平 音楽ミックス :今村左悶、江渡佳彦 協力:珈琲専門店アルマンド、pebble 下北沢、bar DUDE、晴海客船ターミナル、牛丸亮、針ヶ谷仁、飯田澄人、浅井ヘアメイク事務所 音楽協力: エム・スタイル 配給宣伝:MAP 配給協力:ALFAZBET
2022年/カラー/日本/DCP/ビスタ/74分
(C)映画「風のゆくえ」製作委員会

公式サイト
https://mikata-ent.com/movie/1573/