完成後、パナヒ監督は逮捕された――ヴェネツィア国際映画祭で審査員特別賞に輝く話題作『熊は、いない』

 反骨の映画監督、ジャファル・パナヒの新作『熊は、いない』。彼は1995年の長編デビュー作『白い風船』で第48回カンヌ国際映画祭カメラドール<新人監督賞>に輝いたものの、2010年に映画撮影と出国の禁止をイラン国家から言い渡された。が、それでも彼は作品を作り続け、9月15日から新宿武蔵野館ほか全国順次公開される『熊は、いない』も、すでに第79回ヴェネツィア国際映画祭で審査員特別賞を獲っている。

 パナヒ監督は脚本や制作も兼ね、また、レポーター、スポークスマン的役割も担っていて、画面に存分に登場し、リモートで助監督に指示を送る。「偽造パスポートを使って国外逃亡しようとしている男女」がスリルを運ぶ瞬間、滞在していた村での「古いしきたりによって、愛し合うことが許されない恋人たち(自分たちは両想いなのに、第三者が認めないために一緒になれない)」の哀しげな姿(“ヤグーブ”というキャラクターに注目)、そして翻弄されるパナヒ監督。私は凝った入れ子構造ぶりにも感服しつつ、監督が切り取った「現状」を浴びた。タイトルに登場する“熊”は何なのかと、じっくり考えてみるのも意義のあることであろうし、狭いコミュニティの持つ狂的な特異性をあからさまにするという点で、話題の日本映画『福田村事件』と対照して鑑賞するのも一興ではなかろうか。

 なお、「本作完成後、パナヒは逮捕された」という。トルコとイランの位置関係も頭に入れつつ鑑賞すれば、よりビビッドな体験ができるに違いない。

映画『熊は、いない』

9月15日(金)より 新宿武蔵野館ほか全国順次公開

監督・脚本・製作:ジャファル・パナヒ
撮影:アミン・ジャファリ 編集:アミル・エトミナーン サウンドデザイン:モハマド・レザ・デルパック
2022/イラン/英題:NO BEARS/ペルシア語・アゼリー語・トルコ語/107分/カラー/ビスタ/5.1ch
日本語字幕:大西公子/字幕監修:ショーレ・ゴルパリアン
配給:アンプラグド
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