PHANTOM(幽霊)の正体を突き止めろ! 日本支配体制時代を舞台としたスパイ・アクション『PHANTOM/ユリョンと呼ばれたスパイ』

 舞台は1933年の京城(ソウル)。ご存じかと思うが1910年から45年まで朝鮮半島は大日本帝国に支配されていた。「京城」と名付けたのも日本側の意志だ。臣民として生き、日本語を覚え、しゃべり、日本人と同化することを考えていたひとも、それだけはいやだと自身のルーツに忠実にあろうとしたひともいた。その「葛藤」、政治的な「くびき」の描写にも、私は痛快なアクション・シーン、ガンさばき、諜報戦と共に、大いに惹かれた。

 映画で表現されているのは、「とある一日」。朝鮮総督府内にもぐりこみ、総督を暗殺しようと企てる抗日組織・黒色団のスパイ「ユリョン」、その人物を捕らえようとする警備隊長・高原の動きが全体の核だ。「ユリョン」の正体は高原にもわからないので、怪しそうに感じた者を次々と集めて、問い詰めてゆく。容疑者には猫好きもいる。疑いを晴らそうとする容疑者たち、クールに事を進める「ユリョン」、戸惑う高原。その動きに目を凝らしながら、随時現れる「どんでん返し」におののいていると、約2時間20分はあっという間だ。

 監督は、『毒戦 BELIEVER』のイ・ヘヨン。スパイ・アクションという触れ込みであり、日本と朝鮮半島の歴史をまったく知らなくても、充分楽しめるに違いない山あり谷ありの内容だが(とんでもなく奮闘したであろう美術スタッフにも表敬したい)、ある程度の下調べをしてから楽しむと、さらに感銘は倍増しよう。

 ドイツ人である役者・歌手のマレーネ・ディートリヒが、ほんの少々とはいえアイコン的に描かれるところも見逃せない。また、「死んでゆく過程」の描き方に、私は、ふと鈴木清順監督作品『刺青一代』を想起した。

 朝鮮支配時代の話なので、登場人物のほとんどは日本語をしゃべる。が、本音を同胞にこぼすときには、決してそうしない。このあたりの描写にも注目されたい。名優ソル・ギョングの活躍はもちろん、注目のアクトレスであるイ・ハニとパク・ソダムが抜群のチームワークで事にあたる姿もかっこいい。

映画『PHANTOM/ユリョンと呼ばれたスパイ』

11月17日(金) シネマート新宿 ほか 順次公開

監督・脚本:イ・ヘヨン
製作:パク・ウンギョン、チョン・チャンフン
撮影:チュ・ソンリム
編集:ヤン・ジンモ
音楽:タルパラン
武術指導:ホ・ミョンヘン、ユ・ミジン
出演:ソル・ギョング、イ・ハニ、パク・ソダム、パク・ヘス、ソ・ヒョヌ、キム・ドンヒ、キム・ジュンヒ、コ・インボム
2023年/韓国/133分/カラー/シネマスコープ/5.1ch/日本語字幕:福留 友子/レイティング:G 配給:クロックワークス
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公式サイト
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