現代日本の合わせ鏡に出くわしたような思いで、約2時間、観入った。原作は第14回小説現代長編新人賞に輝いたパリュスあや子・著「隣人X」。12月1日より新宿ピカデリー他で全国ロードショーされる『隣人X -疑惑の彼女-』は、この社会派小説を原作とする映画だ。
“X”とは、紛争のため故郷を追われた惑星難民Xを示す。その姿は人間と見分けがつかない。なぜなら人間の姿をコピーする能力があるからだ。アメリカに続いて日本もXの受け入れを決定したが、それをよしと考えていないひともいる。差別、偏見、好奇の目、不安、動揺、疑惑。この惑星難民の目的は何なのだ? あいつ、Xなんじゃないか? 世の中が落ち着かない。
そこで動き出したのが週刊誌記者の笹憲太郎(林遣都)だ。まだ、これといって業績をあげていない若手の彼が、「Xではないか」という疑惑のかかっていた柏木良子(上野樹里)の調査を始める。まだ疑惑は疑惑のままだが、彼女がXであると証明するに足るものが一つでも発見できたら、大スクープだ。目的を隠し、笹は、実に計算高く、良子にどんどん近づいていく。この先はどんでん返しにつぐどんでん返しなのだが、「記者としての自分と、一人の人間としての自分」の間で揺れ動く笹の心情、そしてエンディングで彼に訪れる「発見」が、じっくり、丁寧に描かれているところには目を見張らされた。
笹と涼子のやりとりのほか、音楽の夢を追いかけている仁村拓真(野村周平)と、英語は巧みだが日本語はおぼつかなく、無神経なひとたちによく“何を言っているかわからない”といわれる留学生の林怡蓮(??嘉)のそれを追ったシーンにも注目したい。熊澤尚人監督作品への上野の登場は、2006年の『虹の女神 Rainbow Song』以来となる。
★映画『隣人X -疑惑の彼女-』
12月1日(金) 新宿ピカデリー他全国公開
配給:ハピネットファントム・スタジオ
(C)2023 映画「隣人X 疑惑の彼女」製作委員会 (C)パリュスあや子/講談社