行方不明の妻はどこへ――港町を訪れた男の、過去と現在をさまよう幻想物語『海街奇譚』

 第41回モスクワ国際映画祭の審査員特別賞、第18回イスタンブール国際インディペンデント映画祭の批評家協会賞などを受賞。若手監督チャン・チーの長編デビュー作(脚本はユー・ビヨウと共同)が、ついに1月20日からシアター・イメージフォーラムほかにて全国順次公開される。

 原題は『海洋動物 In Search of Echo』。なるほど、海に住む動物がさまざまな形で(姿そのものであったり、メタファー的であったり)登場し、港町の情景も大きくフィーチャーされる。チー監督自らが持つ、港町で生まれ育ったというバックグラウンドを生かしつつ、そこに「幻想」という要素を思いっきり振りかけた感じだ。私は「(おそらく)4つの物語」が時空を超えて交差しているという印象を受けたが、解釈は観る者それぞれによって大きく異なることだろう。つまり、それほど幅を持つ見方が許容される作品なのだと言い切ってみたい。

 中核をなすのは、「行方不明の妻を探しにやってきた夫が、妻をほうふつとさせる女性と出会う」事柄だろうか。だがこの男、相当に複雑な内面を持っているので、こちらもじっくりと画面と向かい合わなくては、という気持ちをさらに強くさせ、見る者を次第にカタルシスに導く。

 広がりのあるカメラ・ワーク、各シーンの「つなぎのうまさ」にも大いに惹かれたし、「カブトガニをああいう風に食べるのか」という発見も得た。「アート・サスペンス」というキャッチフレーズにも納得の、芸術の香り、感性の鋭さが充満した一作である。出演はチュー・ホンギャン、シューアン・リン、ソン・ソンほか。

映画『海街奇譚』

1月20日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

脚本・監督:チャン・チー 撮影:ファン・イー 視覚効果:リウ・ヤオ 音楽:ジャオ・ハオハイ 美術:ポン・ボー 共同脚本:ウー・ビヨウ 編集:シュー・ダドオ

出演:チュー・ホンギャン、シューアン・リン、ソン・ソン、ソン・ツェンリン、チュー・チィハオ、イン・ツィーホン、ウェン・ジョンシュエ

配給:Cinemago
2019年/112分/中国/映倫G/原題「海洋動物」/英題「In Search of Echo」
(C)Ningbo Henbulihai Film Productions/Cinemago

公式サイト
https://umimachi-kitan.jp/