「すさまじい威力の拳をもってしまったがために」……。男の運命と憤怒を描く韓国ノワール『THE WILD 修羅の拳』

 「ひとつの技能に卓越しすぎてしまった男の悲哀」が描かれている。主人公は、元ボクシング選手のウチョル。彼は「賭けボクシング」で相手と戦い、結果、その相手は絶命した。もっとも実際は「激しく殴られたから、すなわち死んだ」というほど簡単なものではなく、相手だって同じくらいのウエイトのあるボクシング選手なのだから、殴られて死ぬ、というのもなにか怪しいではないか。その疑問が、物語の進行に味わいを与える。

 ウチョルは結局罪を背負うことになり、8年間ものあいだ服役する。釈放された彼を待っていたのは、ドシクという友人。彼はまた、犯罪組織のボスであった。腕力に秀でたものを部下に置きたい、と思うのは悪の首領としてはごく当たり前の考えかもしれないし、友人なのだからまさか俺を殴りはしないだろうという読みもあるかもしれない。が、ウチョルはもう悪に染まるのはこりごりなのだ。まじめに生きたいのだ。

 が、彼のまわりには悪い連中が、彼を利用しようと集まってくる。そして彼は「許せないことは絶対に許せない」気質の持ち主だ。もう我慢できなくなった時、彼の拳は再び人間に向かった。さあここからがスリルとサスペンス。彼は悪の誘いから脱出できるのか? 「警察」の存在も妙にコク深く描かれているし、「裏切り」の連続を把握するためには、注意深く画面を見て人物の相関を頭に叩き込んでおきたい。主演パク・ソンウン、監督キム・ボンハン、脚本:キム・ジュマン。

映画『THE WILD 修羅の拳』

2月16日(金) シネマート新宿 ほか 順次公開

監督:キム・ボンハン 脚本:キム・ジュマン 製作:ナム・ジウン 撮影:キム・ジェソン 編集:キム・ウヒョン、キム・ヒョンソ 音楽:モク・ヨンジン
出演:パク・ソンウン、オ・デファン、オ・ダルス、チュ・ソクテ、ソ・ジヘ
2023年|韓国|韓国語|カラー|シネマスコープ|5.1ch|110分|英題:THE WILD|字幕翻訳:小西朋子|レイティング:PG12 配給:クロックワークス
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公式サイト
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