こちらの不勉強もあるとしても、こんなにも「知ら(されてい)なかったこと」が現在進行形で行われているとは、やはりショックだ。“2015年から8年かけ沖縄・南西諸島をめぐり取材を続けてきた映画作家でジャーナリストの三上智恵による渾身の最新レポート”の名に、いささかの誇張も感じられない。一度気を緩めたら、もうその段階から「何か」が、たった1ミリも開いてないような穴からするりと、猛烈な圧で入り込んでくる。
愛する街が、慣れ親しんできた街が、軍事要塞化されてゆく。ふるさとが大量殺人や文化破壊の拠点になるなんて、と、誰もが怒りに燃えているはずだ、と私は予想したが、実はそうばかりでもない。そこそこエライ人が賛成したり、長いものに巻かれるのは(本心はどうかはさておき)より上級を目指し生き伸びていくための処世術だとしても、ごくまっとうに、まじめに仕事をしている親子間でも意見の相違があり、よりその地に長くいる親のほうが、捉えようによっては「要塞化賛成」のようなことを真顔で言うのである。
では、しょんぼりさせられる展開ばかりかというと、そんなことはなく、フォークロア(祭り)や船漕ぎのシーンは実に美しく、こういうときに貢献する自衛隊には気持ちのよい強さがある。海の輝き、空の広さ、動物や植物の姿も、皆、豊かだ。ROVO等で活動するヴァイオリン奏者、勝井祐二による音楽も印象深い。
映画『戦雲』(いくさふむ)
3月16日(土)より [東京]ポレポレ東中野、[大阪]第七藝術劇場、3月23日(土)より[沖縄]桜坂劇場 ほか全国順次公開
監督:三上智恵 語り:山里節子 プロデューサー:橋本佳子、木下繁貴 撮影:上江洲佑弥 編集:青木孝文 監督補:桃原英樹 CG:比嘉真人 イラスト:山内若菜 音楽:勝井祐二 製作協力:沖縄記録映画製作を応援する会 製作:DOCUMENTARY JAPAN、東風、三上智恵 配給:東風
2024/日本/132分/DCP/ドキュメンタリー
(C)2024『戦雲』製作委員会
公式サイト
https://ikusafumu.jp/