こんな時代だからこそ観ておきたい。生存者による渾身のメッセージが、作品完成から25年を経て日本の劇場で初公開『ナチ刑法175条』

 「ナチ刑法」というくらいなのだから差別・弾圧・洗脳・殺人・優生思想と結びついている内容なのは確かだろう、と思いながら観始めたのだが、こんなことがあったとは、と、また権力者たちの悪行に言葉を失わされた。20世紀の、まだ100年も経っていない、地球の歴史から言えばまだまだ近過去であろう時代に、どうしてこんなコンセプトによる政府が生まれたのか、一時期とはいえ猛烈に人口に膾炙したのか、私はかねがね気になっていて、「わが闘争」や、草森紳一の「宣伝的人間の研究」シリーズなどを読んできたが、どうにも難しいところがあって1ページこなすのに10分くらいかかることもある。

 この映画は実にわかりやすい。ストレートに心に刺さる。と同時に、カメラの前で生々しい話をしてくれた登場人物――「6人のゲイ、ひとりのレズビアン」とはいっても、つまり7名の人間だ――の凛としたマインドに、こちらの背筋も伸びる。いわば、セカンドレイプにあたるようなことを、その葛藤を乗り越えて、私たち観る者に語っているのだ。「もうこんな時代が決して来ることのないように」という、今を生きる者への遺言でもあろう。表題の「ナチ刑法175条」とはずばり、同性愛禁止法。同法により約10万人が捕まり、1万人から1.5万人が強制収容所に送られ、強制労働や医学実験に使われたという。この映画は1999年の制作だが、当時生存が確認できたのは10名に満たなかったらしい。ちなみに、政府内にも同性愛者はいた。ヒトラーが彼をどうしたかについても、この映画でしっかり説明されている。が、この「175条」自体は1872年の元旦から施行されていた(男性間、男性と動物間のみを処罰)。それがなぜナチス下で活気づいたのか、というところも私にとってこの作品の焦点のひとつだった。

 1985年のアカデミー賞受賞作『ハーヴェイ・ミルク』のロブ・エプスタインと、同作のスタッフだったジェフリー・フリードマンが監督を担当。今回の公開はデジタル・リマスター版による上映となる。

映画『ナチ刑法175条』

2024年3月23日(土)新宿K’s cinemaにて上映

監督:ロブ・エプスタイン+ジェフリー・フリードマン
原題:Paragraph 175
米国/1999年/英語・ドイツ語・フランス語/カラー/81分/日本語字幕付き
日本版字幕:川口隆夫 宣伝デザイン:潟見陽 パブリシティ:スリーピン

公式サイト
http://www.pan-dora.co.jp/paragraph175/