元特殊部隊員がやむを得ず取った行動とは——善悪の概念を揺さぶるクライム・アクション『トランスフュージョン』

 衝撃的な内容だ。軍人とはこんなに切ないものなのか。上の者の命令に従って、がんがん軍事行動をして、自分の命は助かって、退役したところで、出くわした風景がこれなら、いたたまれない。

 主人公のライアンは元特殊部隊員。全身これ鋼という感じで、身体能力に優れている。強い者の強さを大いに味わいながら過ごしていたある日、ひとつのトラブルが起きて、妻を失ってしまう。どうにか命拾いした幼い息子・ビリーのためにとライアンは退役し、共に生活していくことを決める。が、彼に秀でていたことは、「射撃における天才的能力」。退役してしまったから、それをオフィシャルな形では発揮できなくなった。だが生活のためには、アンオフィシャルな形であれ、それを生かす場を探さざるを得ない。そうなると「闇のコネクション」との関わりは避けられない、ということになる。

 このライアンの持つ「焦り」、「戸惑い」、「でも、こうするしかないんだ」的思い切りの良さ。母を失った淋しさが深まる一方で「静かにグレていく」ビリーのあてどなさ。本来、ライアンはとても子煩悩で息子思いのはずなのだ。が、ライアンとビリーの気持ちはすれ違うばかり。そんな、なんとも安定しない毎日に、ライアンの特殊部隊員時代の同僚(とあるが年齢はかなり上で、その辺の上下関係はありそうだ)ジョニーが持ち込んできた案件が入り込んでくる。ビリーとジョニーの間で、振り子のように揺れ動くライアンの心情がひじょうに繊細に描かれている。監督・脚本は俳優や作家としても活動するマット・ネイブル(これが長編初監督)。ライアン役はサム・ワーシントン(『アバター』シリーズ、『15歳のダイアリー』など)が務めた。

映画『トランスフュージョン』

5月10日より新宿バルト9ほか全国ロードショー

監督・脚本:マット・ネイブル 撮影:シェリー・ファージング=ドウ
出演:サム・ワーシントン、マット・ネイブル、フィービー・トンキン
2023年|オーストラリア|カラー|シネスコ|5.1ch|105分|英語|日本語字幕:各務くみ子|原題:TRANSFUSION|レイティング:PG12|配給:クロックワークス
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公式サイト
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