こんな「男女の入れ替わり」があるなんて! ストーリーの妙、キャスティングの妙が光る一作『愛のぬくもり』

 男女の中身が入れ替わる話、ときいたとき、ある程度の年齢の人がかなりのパーセンテージで思い出すであろう映画は『転校生』のような気がする。調べてみたら1982(昭和57年)、もう40年以上も前の作品だ。主人公は中学生だった。

 いっぽう、この『愛のぬくもり』では現代の成人男女が入れ替わる。ここがとても面白い。男・たかし(小出恵介)は小説家で妻帯者。女・サトミ(風吹ケイ)は美容師で女性しか愛せない。実に味わい深いキャラクター設定だが、さらにそのまわりのひとたちが味わい深い。にわかには信じがたい行為を行う(ぜひ本編をご確認いただきたい)男の妻、男性しか愛せないバー店主の男、自分では同性愛者だと思っていたがバイセクシャルであることに気づいた女、などなど。主役二人も含めて、不器用かもしれないが、誰もがエモーショナルに毎日を生きている。「なあなあ」の奴など、ひとりもいない。そこが私には爽快だった。

 観る者の焦点が「中身が入れ替わってしまった男女は、果たして元に戻るのか」「戻るためには、元に戻るまで、体をぶつけて階段を転げ落ちることを繰り返すべきか」「解決策のひとつとして、セックスは有効なのか」に向かうのは当然だと思うが、個人的に印象に残ったのは、たかしとサトミ以外の人物が、「ふたりの中身が入れ替わったこと」よりも、しばらく「男の容姿/女の容姿」に引きずられた対応を続けていることだ。サトミの容姿をしたたかしが「俺」を主語に語っても、たかしの容姿をしたサトミが「私」を主語としてソフトにふるまっても、である。「人間というものは、目から入ってきた情報に持っていかれる動物なのだなあ」と、妙な再認識をしてしまうに十分な描き方だと感じた。

 小出恵介が芸達者なのは存じあげていたが、目下話題の気鋭、風吹ケイがこんなにキレのいい演技をしているのも、嬉しい驚きだった。この一作で彼女の役者としての株は一気に上昇するはずだ。監督は昨年、『海辺の恋人』『道で拾った女』など複数の作品が劇場公開されたベテラン、いまおかしんじ。

映画『愛のぬくもり』

2024年7月6日(土)より、新宿K’s cinemaほか全国公開

<キャスト>
小出恵介 風吹ケイ
新藤まなみ 荒木双葉 川瀬陽太 田中幸太朗 冨家ノリマサ 中嶌駿介 伊藤和哉 華岡 稟 一ノ瀬紗那

<スタッフ>
脚本・監督:いまおかしんじ 企画:利倉 亮、郷 龍二 プロデューサー:江尻健司、北内 健 アシスタントプロデューサー:竹内宏子 撮影:吉田淳志 照明:オカザキタカユキ 録音:山口 勉 編集:蛭田智子 助監督:小泉 剛 ヘアメイク:甲 菜那 スタイリスト:手塚 勇 スチール:阿部拓朗 制作:洲鎌恒男 音楽:宇波 拓 整音・音響効果:藤本 淳 キャスティング協力:関根浩 営業統括:堤 亜希彦 制作:レジェンド・ピクチャーズ 配給宣伝:ムービー・アクト・プロジェクト 配給協力:ミカタ・エンタテインメント
2024年/日本/ 91分/カラー/ステレオ/R-15作品
(C)2024「愛のぬくもり」製作委員会

公式サイト
https://www.legendpictures.co.jp/movie/shapeofmyheart/