
2023年のカンヌ国際映画祭で上映された唯一のロシア映画であるという。舞台となる場所はロシア南西部の辺境。くすんだ天気、生気を失った人々の顔、画面越しに伝わってくるような「寒さ」や「荒涼」。使われている言語はロシア語、ジョージア語、バルカル語だ。
ストーリーは16歳の娘と、その父親が中心。年季の入ったバンで土地土地を転々とし、移動映画館を開いたり、違法DVDを密売したりしている。夢も希望も感じられない、生きているというよりも「ひとまず死んではいない」という感じのふたりではあるが、少女には輝かしい「自我」があった。その「自我」が生き生きするほど、無慈悲なまでにだだっ広く寒々とした土地の風景とのコントラストが深まっていく。
監督・脚本のイリヤ・ポヴォロッキーは東ヨーロッパの民話を基にストーリーを考案し、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が本格化する直前に収録された。なんともやるせない気持ちにさせられると共に、少女の幸せを願わずにはいられない一作である。出演はマリア・ルキャルノヴァ、ジェラ・チタヴァ、エルダル・サフィカノフ、クセニャ・クテポワ等。
映画『グレース』
10月19日よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
監督・脚本:イリヤ・ポヴォロツキー
撮影:ニコライ・ゼルドビッチ
音楽:ザーカス・テプラ
出演:マリア・ルキャノヴァ、ゲラ・チタヴァ、エルダル・サフィカノフ、クセニャ・クテポワ
原題:Блажь | Blazh 日本語字幕:後藤美奈 配給:TWENTY FIRST CITY 配給協力:クレプスキュール フィルム
[2023年/ロシア/ロシア語、ジョージア語、バルカル語/119分/カラー/ヨーロピアンビスタ]