「美しければ、文字なんか読めなくてもいい」。約8年間、既成概念をぶっ壊す試みに迫った力作。『狂熱のふたり~豪華本「マルメロ草紙」はこうして生まれた』

 「こだわりの成就」に立ち会っているような臨場感がある。これほどのこだわり、冒険が成り立ったのは、出版社の度量の大きさ、橋本治のヴァリュー、まだいくばくかの熱さの残っていた時代あってのことだろう。『マルメロ草紙』の発表は2013年のことだが、隔世の感しきりだ。

 この映画は、定価35,000円、発行部数150部の豪華本『マルメロ草紙』ができあがるまでを、2006年の段階から丹念に追った一作。打ち合わせ、打ち合わせ、打ち合わせ、試行錯誤、打ち合わせ、などで成り立っている進捗を我々はひたすら見る。「本文の文字をいろんな色にしたい」的な橋本治のアイデアに私はまず驚かされたし、絵を担当した岡田嘉夫の気迫にも打たれた。監督の浦谷年良(伊丹十三、宮崎駿、深作欣二らのドキュメンタリーも制作)は収録中からテレビ局にこの企画を持ち込んでいたが、成就せず、橋本治のマネージャーに預けたものの、彼が亡くなり、戻ってきた映像を自らの手でまとめた。完成までに橋本も岡田も他界してしまった。やはり、隔世の感しきりだ。

 こんなに生き生きと作品づくりに興じていた人はもういなく、だがその姿はしっかりと作品に刻まれている。「本」が、文章家と編集者だけではなく、装丁家、印刷技術者、製本職人などとの総合複製芸術であるということも、この映画は雄弁に物語る。

映画『狂熱のふたり~豪華本「マルメロ草紙」はこうして生まれた』

12月7日より ポレポレ東中野 ほか全国順次ロードショー

出演:橋本治、岡田嘉夫 中島かほる 他
ナレーション:木村匡也
監督・撮影・編集:浦谷年良 企画:刈部謙一 製作:杉田浩光 プロデューサー:杉本友昭 共同プロデューサー:渡辺誠 制作:テレビマンユニオン 配給・宣伝:NAKACHIKA PICTURES 撮影協力:集英社、TOPPAN、ハースト婦人画報社
2024年/日本/84分/ワイド/ステレオ
(C)テレビマンユニオン

公式サイト
https://kyounetsu-movie.jp/