人気小説を人気監督が映画化。ひとりの女性の、恋をめぐる10年間をあたたかな視点で描く。『早乙女カナコの場合は』

 『ストロベリーショートケイクス』や『さくら』等で知られる矢崎仁司監督の5年ぶりの新作は、柚木麻子の小説『早稲女、女、男』が原作。監督と共同脚本家による第1回目の打ち合わせが行われたのは2014年であるらしいから、文字通り10年がかりのプロジェクトということにもなる。

 そして物語も、主人公カナコの10年にわたる恋愛模様を中心に描かれている。大学の入学式で、本当にひょんなことから知り合った長津田という、演劇サークルにいて脚本家を目指しているチャラい感じの男(しかし脚本を完成させられず)との、何とも不思議な交際が面白味を与える。カナコは彼よりも先に卒業も就職して、大手出版社に就職が決まるが、そこで彼女に告白をしてきたのは長津田とは正反対の、まじめなキャラクターを持っていそうな先輩・吉沢。カナコはやがて編集者となるのだが、なぜこの職業を志したきっかけに対しても丁寧に触れられているなど、伏線が見事に回収されているし、サイドのキャラクターもそれぞれ個性的に描かれているので、ひじょうにメリハリのあるひとときに浸ることができる。今、異性間の恋模様で、ここまで2時間ひきつけることのできる映画は貴重なのではなかろうか。

 カナコ役は橋本愛、長津田役は中川大志が演じる。共演は山田杏奈、臼田あさ美、中村蒼、のん等。やはり柚木麻子原作の映画『私にふさわしいホテル』と陸続きになっているようなシーンがあるのも粋だ。3月14日より全国公開。主題歌は中嶋イッキュウの「Our last step」。YouTubeで公開中の同曲のMVには映画の未公開シーンも含まれているので、こちらも必見だろう。

映画『早乙女カナコの場合は』

2025年3月14日、新宿ピカデリー ほか全国公開

<キャスト>
橋本愛
中川大志 山田杏奈
根矢涼香 久保田紗友 平井亜門 /吉岡睦雄 草野康太/ のん
臼田あさ美
中村蒼

<スタッフ>
監督:矢崎仁司 原作:柚木麻子『早稲女、女、男』(祥伝社文庫刊)
脚本:朝西真砂 知 愛 音楽:田中拓人 主題歌:中嶋イッキュウ「Our last step」(SHIRAFUJI RECORDS) 製作:石井紹良 髙橋紀行 宮西克典 プロデュース:中村優子 金 山 企画・プロデューサー:登山里紗 プロデューサー:古賀奏一郎 撮影:石井勲 照明:大坂章夫 音響:弥栄裕樹 美術:高草聡太 装飾:杉崎匠平 編集:目見田健 衣裳:篠塚奈美 ヘアメイク:酒井夢月 キャスティング:北田由利子 助監督:古畑耕平 制作担当:福島伸司 宣伝協力:FINOR 製作幹事:murmur KDDI 配給: 日活/KDDI 制作:SS工房 企画協力:祥伝社
2024/日本/DCP/2:1/5.1ch/119min 映倫区分:G
(C)2015柚木麻子/祥伝社
(C)2025「早乙女カナコの場合は」製作委員会

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