19世紀から20世紀にかけて実在したフランス人女性がモチーフであるという。主人公のロザリーは、多毛症である。もっとくだけた言葉でいえば、「すごく毛深い」。当然ながら、それは彼女にとってコンプレックスだ。こまめに剃らなければ、たちまちヒゲ面になってしまうのだ。カフェ店主との結婚当初もこまめに剃っていたが、カーニバルでヒゲの生えた女性を見て、「私の方が毛深い」とばかりにヒゲを伸ばし始めたのだから夫も腰を抜かさんばかりに驚くしかない。そして彼女の中でひとつの考えが生まれる。「この毛深さは、ひょっとしたらカフェの集客につながるのではないか」、と。店名は「ヒゲの女性のカフェ」に改められた。自ら見世物への道を選ぶことにした、とも解釈できようか。

夫婦の信頼関係は丁寧に描かれ、「奇異なもの」にある時は興味深さをかきたてられ、ある時はビビる人々の姿も活写されている。我々は決して彼らの対岸はいない。突如、目の前に、ヒゲだらけの顔をした女性が現れたら、我々だって泡を食うに違いないからだ。好奇の目を可能な限り捨てたとき、物語そのものの味わいはさらに増すことだろう。エンディングに向かっていく過程には、「そうきたか」と唸らされた。第76回カンヌ国際映画祭で「ある視点」部門に出品、クィア・パルム賞にノミネートされたのも納得だ。ロザリーを演じたナディア・テレスキウィッツは、第16回アングレームフランス語圏映画祭で最優秀主演女優賞を受賞した。夫役はブノワ・マジメル、監督・脚本はステファニー・ディ・ジュースト。
映画『ロザリー』
5月2日(金)新宿武蔵野館ほか全国公開
監督・脚本:ステファニー・ディ・ジュースト 脚本協力:サンドリーヌ・ル・クストゥメル
出演:ナディア・テレスキウィッツ、ブノワ・マジメル、バンジャマン・ビオレ、ギヨーム・グイ、ギュスタヴ・ケルヴェン、アンナ・ビオレ
2023年|フランス・ベルギー|フランス語|115分|シネマスコープ|5.1ch|原題:Rosalie|字幕翻訳:大城哲郎|PG12|配給:クロックワークス
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