意表を突きまくりながらも非常にスムーズに流れゆく展開、何回ものどんでん返しがちっとも奇異に感じられない流れ、「現在」の痕跡をどこかに残しつつも徐々に物語の展示を過去へとさかのぼらせてゆくうまさ。ストーリーテリングの面白さ、「今、ここを映してほしいんだ」を直撃するようなツボを得たカメラ・ワークに唸らされ、役者陣(特にパク・ジヒョン)の豊かな表情や声の使い方に魅了される。「まさか」と「なるほど」が混濁するようなエンディング部分も含めて、傑作に出会えた、と、喜びがこみあげてきた。

基本的にはクラシックのオーケストラの指揮者・ソンジン(ソン・スンホン)と、その婚約者でチェロ奏者のスヨン(チョ・ヨジョン)、そしてどこか謎めいた、やはり女性チェロ奏者のミジュ(パク・ジヒョン)。物語はスヨンの失踪から始まる。結婚を控えているだけではなく、オーケストラの大事なリサイタルもあるのだ。こんな時期にいなくなるなんて、事件に巻き込まれたとしか思えない。そこに、ソンジンの心をさらにかき乱すようにミジュが登場する。このミジュは、何者なのか。単にソンジンに好意を抱いて接近してきただけなのか、なんなんだ。それにスヨンが残した「あなたと過ごせて幸せだった」というビデオメッセージにはどんな意味があるのか。観る者はばっちり、壮大な謎ときにいざなわれる。私のようにミジュに魅了されるか、それともほかの登場人物に魅了されるのか、それは観る者次第。そのくらい「そそる」ファクターがつめこまれている。監督キム・デウ。
映画『秘顔-ひがん-』
6月20日(金)より、新宿ピカデリーほか全国公開
監督:キム・デウ
出演:ソン・スンホン チョ・ヨジョン パク・ジヒョン
2024年/韓国/115分/1:2ユニビジョン/カラー/5.1ch/字幕翻訳: 田村 麻美/R18 配給:シンカ/ショウゲート
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