原作:福田和子(「涙の谷」扶桑社刊)。このクレジットだけで引き込まれる人も、拒否反応を示す人もいるだろう。ホステスを殺害し、14年11ヵ月10日間、逃げ続けて、時効の数十日前に逮捕された同犯人をモチーフにした一作だ。

この犯人は過去いろんなドラマの素材となってきた。本作の興味深さは、タイトル『私の見た世界』通り、大半の箇所でカメラが福田和子の目となり、体験となっていることにある。「福田和子の視点を疑似体験できる」と書くと相当、大げさになってしまうかもしれないが、こうした描き方はすこぶる新鮮だ。観終えてから私は福田和子について初めて検索した。少女の頃から犯罪歴があること、男性には事欠かなかったらしいこと、4人の子供たちの母であったこと、などなどを知ってから、70分未満という手ごろな長さであることもありがたく思いつつ作品を再見した。自転車のシーンをはじめ、「ああ、これはこの事柄とつながるのだな」という箇所が見えてきて、自分の心にいささかの福田和子が入ってくることを抑えきれなかった。だからといって同情の余地は全くないし、第一、人を殺しちゃダメに決まっているのだが、福田和子も相当カッカして一線を越えてしまったんだろうなとは思った。
顔を変えたり偽名を使って、土地を転々として、きわめておだやかな人間関係を築こうとしていくものの、なにしろ福田和子といえば超有名な指名手配犯であり、その点でも「別人を演じ続ける苦労」は並大抵ではなかった。もっともそれだって殺人を犯したゆえの自業自得であり、同情の余地は全くないし、第一、人を殺しちゃダメに決まっているのだが。
監督(長編初)・脚本・編集・主演は、すべて石田えりが担当。それほどまでに表現したかったものがここにあるのだ。この大変な意欲作は7月26日よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開される。
映画『私の見た世界』
2025年7月26日(金)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
製作/配給:トライアングルCプロジェクト
配給協力/宣伝:Playtime
2025年/日本/日本語/69分/カラー/1.85:1/PG12
(c)2025 Triangle C Project