詩人、作家、反体制派、亡命者、執事、ホームレス、兵士、活動家、革命家――いくつもの顔を持つ男。『リモノフ』

 正直に言うと私はこの作品に出会うまでエドワルド・リモノフという人物を知らなかった。が、鑑賞することで、リモノフ像が自分の中に入ってきた。こういう体験ができるから映画は面白い。

 「やけに攻撃的な男だな」というのが、映画を通じてのリモノフに対する第一印象であり、それは物語が終了に近づくにしたがっていっそう強いものとなった。そしてその「イキり」には、時代の空気が大いに関係していそうだ。1943年生まれというから、先ほど亡くなった橋幸夫や今も健在のミック・ジャガーと同い年。リモノフは音楽ではなく、まずペンをとって時代の渦に飛び込んだわけだ。「作家活動中にソ連への反体制活動で国外追放処分を受け、アメリカに亡命後ヨーロッパへ渡り、ソ連崩壊の1991年にモスクワへ戻り、1993年国家ボリシェヴィキ党を共同設立し、反プーチン・反統一ロシア党を掲げ活動していたが2020年に死亡」と、ウェブサイトにはある。映画で大きくフィーチャーされるのはニューヨーク在住時代の風景。退廃的な街並みと、明日なんか来なくてもいいという感じでふるまい続けるリモノフと、トーキング・ヘッズの「サイコ・キラー」(1977年)をはじめとする挿入楽曲、すべてがイーヴルなにおいを放つ。

 原作者のエマニュエル・キャレールは「リモノフは、ロシア情勢を抜きにしても、とても魅力的なキャラクターだ。彼は冒険家で、自身をヒーローとみなす矛盾した男……つい追いかけて、話を聞きたくなるような人物だ。リモノフのこの特異なキャラクターがあったからこそ、共産主義終焉の壮大な物語を書くことができた」と述べている。そしてリモノフ役には、007シリーズにも登場しているベン・ウィショーが扮する。

映画『リモノフ』

9月5日(fri)より全国公開

主演:ベン・ウィショー
監督:キリル・セレブレンニコフ
原作:エマニュエル・キャレール
2024年|イタリア・フランス・スペイン|133分|5.1ch|シネマスコープ|英語・露語・仏語|原題:LIMONOV.THE BALLAD|R15+|字幕翻訳:北村広子|提供:クロックワークス、プルーク|配給:クロックワークス
(C) Wildside, Chapter 2, Fremantle Espana, France 3 Cinema, Pathe Films.

公式サイト
https://klockworx-v.com/limonovmovie/