ヘビーな作品だ。観終わってしばらく、周りでちょっとした物音が鳴るとビクッとしてしまうほどには、怖さの余韻が残る。どこかの建物の陰からサイレンサーをつけた銃で首筋を狙撃されたら俺の人生悔いだらけで終わるな、と見る者を途方に暮れさせるパワーがある。
カンヌ国際映画祭審査員賞受賞のブラジル・フランス合作映画『バクラウ 地図から消された街』が11月28日から東京 シアター・イメージフォーラムにて公開される。監督・脚本はクレベール・メンドンサ・フィリオとジュリアーノ・ドルネレスが共同で担当。クレベールは前作『アクエリアス』がカンヌ国際映画祭コンペティションに選出され、一躍注目を浴びることになった気鋭。出演者にはアカデミー賞受賞作『蜘蛛女のキス』にも登場するソニア・ブラガ、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』にも出演していたウド・キア等。スプラッター、寓話、SF、マカロニ・ウエスタンなど様々な要素を導入しつつも、そのどれでもない、だけど相当な濃度のミクスチャーが、この作品の中で実現している。
「自分たちの街が地図から消されてしまう怖さ」「政治的策略によって市民が分断されてしまう怖さ」「あやめることに快感を覚える(恐らくは洗脳された)“よそ者”が街に突撃してくる怖さ」など、さまざまな怖さが渦巻く130分。英語の響きにこれほど殺気を感じてしまうとは、われながら驚いた。給水タンク、ストリート・ミュージシャン、歴史博物館など、ひとつひとつが物語展開の重要なファクターになる。思いもよらなかった事物が引き金となって、思いもよらなかった展開へともつれこむ。
登場人物がどんどんいなくなっていく。「誰も死なない、まったく血が流れない、銃器が一切登場しない」という映画とは180度違うけれど、これはこれでまたひとつの“静”を描いているのだ、と言いたくなる。
ところでブラジル・フランス合作映画といえば、個人的に真っ先に思い浮かぶのが1959年の『黒いオルフェ』だ(正しくはイタリアも参加した三国合作)。音楽はルイス・ボンファやアントニオ・カルロス・ジョビンが担当、原作はヴィニシウス・ヂ・モライスの戯曲「オルフェウ・ダ・コンセイサォン」である。そして、この『バクラウ 地図から消された街』に出てくる音楽室の黒板のはしっこには、チョークで“Vinicius de Moraes”と走り書きされている。この“地図から消された街”から、第二、第三のヴィニシウスが現れたら、どんなに痛快なことか!
映画『バクラウ 地図から消された村』
11月28日(土)シアター・イメージフォーラムにて公開
監督・脚本:クレベール・メンドンサ・フィリオ、ジュリアーノ・ドルネレス
出演:ソニア・ブラガ『蜘蛛女のキス』『アクエリアス』
ウド・キア『奇跡の海』『ダンサー・イン・ザ・ダーク』『ニンフォマニアック』
バルバラ・コーレン『アクエリアス』
トマス・アキーノ「マウス・トゥ・マウス -危険なゲーム-」
2019/ブラジル・フランス/5.1ch/131分/字幕翻訳:上田香子/原題:BACURAU
レーティング:R15+
配給:クロックワークス