水俣病は終わっていない。原一男が土本典昭に捧げる計372分、3部構成による至高の力作『水俣曼荼羅』公開へ

 372分という上映時間は相当に重いが(第1部「病像論を糾す」、第2部「時の堆積」、第3部「悶え神」の3部構成、途中2度休憩あり)、これ以上そぎ落とすことができない、そぎ落としてたまるか的な制作者側の気概を感じる。だからグッと引き込まれる。そしてとても勉強になった。たくさんの気づきがあった。10分に一度は「そうだったのか」「知らなかった」「もっと知りたい、帰って調べよう」というエモーションにおそわれた、といっても過言ではない。

 ぼくが水俣の公害病を知ったのは小学校低学年のときだ。アメリカ在住のピアニストで作曲家の秋吉敏子が「ミナマタ」という、確か20分ぐらいかかる大作を発表して、たぶん日本の当時のジャズ・ファンはみんな知ってるんじゃないかというぐらい広まった。小学校の図書館にはユージーン・スミスの撮影した水俣写真集があったし、そのスミスは50年代から60年代にかけてニューヨークの住居をジャズ・ミュージシャンに開放していた時期があり、つまりジャズ好きの自分にとって水俣は遠くない。

 監督は、『ゆきゆきて、神軍』など数々の名作を残す原一男。撮影期間は恐らく20年に及ぶ。画質はさまざま、第1部では初老という感じだったひとが第3部では老人になっていたりする。原監督がみずからカメラを持ってインタビューを行なう箇所もあるが、質問事項は実にわかりやすく、声に張りがあって、ききとりやすい。しっかり視聴者を心におきつつ、患者の心にやさしく迫っていく。

 子供の頃にNHKのテレビ番組にフィーチャーされたという男性は、逞しい体躯で船の塗装などもこなす。ディズニー作品の大ファンで、いつか王子様に出会うことを望んでいる女性がいる。惚れっぽくて嫉妬深くて、だけど天真爛漫な女性がいる。懸命に動き回る弁護士がいる。目の前で患者たちが必死の形相で質問しているというのに、紙に書かれた同じことをただ繰り返し音読するだけの役人がいる。おだやかな埋め立て地の下には無数のドラム缶入り毒魚が眠っているという。

 作品後半では“認定”という言葉がキーになっているように思えたが、「認定されたからといって、体調がよくなるわけではない(治るわけではない)」的な言葉にも心をえぐられた。

 この映画はまた、水俣を題材にした数多くの映像作品を発表した土本典昭(08年死去)へのデディケーションでもある。

映画『水俣曼荼羅』

11月27日(土)よりシアター・イメージフォーラム他全国順次公開

監督:原一男
エグゼクティブ・プロデューサー:浪越宏治
プロデューサー:小林佐智子 原一男 長岡野亜 島野千尋
編集・構成:秦 岳志 整音 小川 武
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業) 独立行政法人日本芸術文化振興会
製作・配給:疾走プロダクション
配給協力:風狂映画舎
2020年 /372分 /DCP/16:9 / 日本/ドキュメンタリー
(C)疾走プロダクション

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