極彩色の動く山水画のような映画『春江水暖』がいよいよ公開。視覚と聴覚を研ぎ澄ませて、作品を楽しみたい

 この映像の、透徹した美しさと呼びたくなるほどの色合いはなんなんだ、と声をあげたくなった。美しい四季の移ろい、普遍的な人間模様が、じっくりと時間をかけて、繊細に丁寧に展開される。そんな作品が『春江水暖~しゅんこうすいだん』(英語タイトル:Dwelling in the Fuchun Moutains)だ。

 2019年カンヌ国際映画祭批評家週間クロージング作品、2019年東京フィルメックス審査員特別賞に輝く力作が、2月11日(木)から東京Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開される。

 どんなベテランがこの映画を作りあげたのかとクレジットを見たら、監督・脚本のグー・シャオガンはこれが正真正銘の長編デビュー作であるというのだから驚かされる。山水画の絵巻「富春山居図」に着想を得たという作風は、とくに冬の風景で際立っているように感じられた。出演はチエン・ヨウファー、ワン・フォンジュエン、スン・ジャンジエン、スン・ジャンウェイ、ジャン・レンリアン他。音楽担当のドウ・ウェイが、オルタナティヴ・アンビエントと呼びたくなる響きを提供しているのも強い印象を残した。

 大河・富春江が流れる街、杭州市・富陽を舞台にした物語。再開発のために日々変化していく街のなかで、老いた母と4人の息子、孫娘の恋がつづられる。建物が次々と取り壊されてゆく風景と市場や街角のただならぬ活気、認知症が進んでいく母と幸せを謳歌する孫たちの対比が、ときにロング・ショット(10分はあるように感じられた)を交えつつ、こちらの目を捉えて離さない。

 息子の生き方も四者四様、大きな料理店のオーナーになった者もいれば、闇社会に入り込んでいく者もいる。しかし、なんだかんだいっても家族は家族であり、決して替えのきかないものなのだ。繰り返すが、実に丁寧な作品、そして長編だ。「今日はこの映画を見る以外、なにもしない」的な余裕をもって映画館に足を運び、視覚と聴覚を研ぎ澄ませて、物語を味わい尽くしてはいかがだろうか。

映画『春江水暖~しゅんこうすいだん』

2月11日(木・祝)Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開
出演:チエン・ヨウファー、ワン・フォンジュエン
監督・脚本:グー・シャオガン 音楽:ドウ・ウェイ
配給:ムヴィオラ
中国映画/2019年/50分/字幕:市山尚三、武井みゆき/字幕監修:新田理恵
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公式サイト:http://www.moviola.jp/shunkosuidan/