伝説の鬼才、ピエル・パオロ・パゾリーニ監督生誕100年記念上映が3月4日にスタート。『テオレマ』『王女メディア』が劇場公開

 天才、鬼才、異能、異端児……その名をほしいままにして、ピエル・パオロ・パゾリーニ監督は1975年に非業の死をとげた。その生誕100年を記念して、3月4日(金)から『テオレマ』と『王女メディア』がヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館で劇場公開される。リマスターが施された映像は驚くほどシャープで深みがあり、音質も生々しい。

 『テオレマ』は1968年の作品(日本初公開は70年4月11日)。今回の上映は2020年にアメリカのクライテリオン社が行ったオリジナルネガからの4Kスキャンによる修復版であるという。

 舞台はイタリア、ミラノ郊外にある大邸宅。セレブそのものの暮らしぶりの家族のもとに、ひとりの青年がやってくる。青年はたちまち家族ひとりひとりの心だけではなく体をも捉えてしまう。年齢、性別、関係ないのだ。そして風のように去ってゆくが、残された家族の心と体には、同じ青年から受けたというのに、それぞれ違う、愛や恋慕といったイメージが消えない。さあ、家族はどうなっていくのか。青年は去ってしまったきりなのか——ここから波乱にとんだ展開がすさまじいテンポの良さ(といっても、それは決してわかりやすい形で提示されない。ドラムもベースも入っていない室内楽から強烈なビート感を受けるようなものか)で繰り広げられる。

 青年役のテレンス・スタンプ(いまも健在)はこれが出世作。当時ゴダール監督の妻であったアンヌ・ヴィアゼムスキー、『にがい米』で歴史に刻まれるシルヴァーナ・マンガーノ等、誰ものキャラが濃い。また、アメリカのジャズ・トランぺッター、テッド・カーソンの楽曲「ティアーズ・フォー・ドルフィー」が計3度、使用されているのも実に興味深い。

 『王女メディア』は1969年の作品(日本初公開は70年7月17日)。キャスティングがすごい。どうしてこの組み合わせを思いついたのだろう。主役は史上最高のオペラ歌手に数えられるマリア・カラス、その夫役のジュゼッペ・ジェンティーレは68年のメキシコ・オリンピックの三段跳びで銅メダルを獲得したスポーツ選手だ。つまりふたりとも別分野ではエキスパートかもしれないが、映画に関してはヴァージン同様である。なのに、このふたりがおそろしく重厚で深みのある存在感を携えて画面をひきしめる。

 ストーリーに関してはギリシャ悲劇「メディア」を基にしているともきくが、それを知らなくても、決して二の足を踏むことはない。ギリシャ悲劇とまるで縁のない自分でも、ダイナミックなカメラ・ワーク、ロケ地のトルコ・カッパドキアに拡がる風景、幻想的な衣装、2匹の子猫、冷酷とさえいえるセリフの数々などに引き込まれ続けたからだ。住民がバンジョーのような弦楽器を弾くシーンでは、その音を吹き替えるようにして純邦楽が使われていて、「オッ」と声が出そうになった。『王女メディア』は世界中で公開されてきたのではと思うが、この純邦楽挿入シーンで日本人は、おそらく日本人独自の感慨を、この映画に付け足すことになるだろう。

 亡くなって45年以上が経っているのに、今も異端であり、鋭いままなのがパゾリーニ監督のかっこよさだ。時代に飲み込まれず、ヤバいまま現代に息づいている。これこそまさしくエヴァ―グリーンではないか!

『ピエル・パオロ・パゾリーニ 生誕100年記念上映』

3月4日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国上映
配給・宣伝:ザジフィルムズ

『テオレマ 4Kスキャン版』
1968年/イタリア/99分
(C)1985 – Mondo TV S.p.A.

『王女メディア』
1969年/イタリア=フランス=西ドイツ/111分
MEDEA (C) 1969 SND (Groupe M6). All Rights Reserved.

ピエル・パオロ・パゾリーニ 生誕100年記念上映