66年間の歴史を閉じた魚市場に捧げる、飛び切りのトリビュート・ムービー『浦安魚市場のこと』

 観ていて、自分の無知が情けなくなった。だが、逆に言えば、新たな知識を大いに浴びて、心が研ぎ澄まされていくような気がした。なにしろ自分は、浦安に1953年から魚市場があって、それが2019年3月まで営業を続けていたことなど、まったく知らなかったのだから。

 この映画で主に描かれているのは市場閉場までの道のりだ。つまり、新型コロナウィルスが世界を襲うことになる、およそ1年前までの記録ということになる。画像は今日のものと変わらず鮮明だが、人々の表情は心なしか生き生きとしていて、冬の場面ではマスクをしているひともいるにはいるが「風邪をひいているから」以外の理由ではなかろう。

 主人公は、「昼はまちの魚屋、夜はロックバンド“漁港”」の森田釣竿。ぼくは2008年だったか、日本武道館で行われたイベント「アクト・アゲインスト・エイズ」で、超人気上昇中のPerfumeや三浦春馬といったメンバーに混じり、ドスの利いた声と動きでマグロを解体していた漁港のパフォーマンスを見て、大いに衝撃を受けた。ステージではコワモテでアグレッシヴだが、ふだんは気さくで、家族思いで、街のひとびとから大いに愛されていることがわかる。

 監督の歌川達人は、よりよい作品づくり(人々との密なつながり)を求めて、市場近くの場所に引っ越して撮影に取り組んだ。串刺しハマグリ屋のおばあちゃんの人懐っこさ、マグロから内臓や血を抜くシーンにおける怒涛のごとき液体噴出など、主人公以外がフィーチャーされた箇所もやたらと印象に残る。

映画『浦安魚市場のこと』

12月17日(土)より、渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

<スタッフ・キャスト>
監督・撮影・録音・編集・製作:歌川達人 編集:秦岳志 整音:山本タカアキ カラリスト:田巻源太(Interceptor) 音楽:POSA(すぎやまたくや&紫藤佑弥) 助監督:今井真 英語字幕:Don Brown&櫻井智子 海外セールス:植山英美(ARTicle Films) プロデューサー:長倉徳生 植山英美 歌川達人 制作:有限会社カサマフィルム ARTicle Films 製作:有限会社カサマフィルム 配給:Song River Production
2022年 / 日本 / 98分 / 16:9 / 5.1ch / DCP /カラー

公式サイト
https://urayasu-ichiba.com/