故・金子勇氏を中心とする、いわゆる「Winny事件」に基づくストーリー。観終わった後、金子氏について調べたところ、筆者と同年代であることがわかった。この事件がなければ、彼は今も自分と同じ時代を呼吸していたんだろうなと思うと、一面識もないのに、なんだか悔しさが増してくる。昭和40年代半ば生まれの者たちは、ひょっとしたら仲間になれたかもしれない才人を失ったのだ。
小さい頃からとにかくマイコン(マイクロコンピュータ)が好きで好きでたまらず、プログラムに関心を持ち、好きこそものの上手なれのたとえ通りに進境著しいプログラマーとなった。だが出る杭は打たれ、2004年にある嫌疑(それは言いがかりとも解釈できるのではないか)で逮捕された。この映画で主に描かれているのは、そこから2011年の刑事裁判で無罪を勝ち取るまでの動きだ。
コンピュータを愛し、コンピュータがなくては朝も夜も来ないぐらいほどだった彼は、それをいじり、プログラミングすることによって自由を感じ、生を謳歌していたに違いないのだ。それが突如、外部の力によって禁じられてしまうのである。そのあいだにも世界のプログラミング技術は日進月歩で進化していたはずで、7年間の空白を経て社会復帰したとき、金子氏がどれほどの虚しさを感じたかは想像するに余りある。
「次代のエンジニアのために」という優しい言葉のうしろには、「もう自分は、外部の意思によって現役の先端から切り離されてしまった者なのだ。こんな思いを後進には絶対にさせてはならない」という強い念が流れているとも筆者には感じられた。監督・脚本:松本優作、東出昌大と三浦貴大のW主演。
映画『Winny』
3月10日(金)よりTOHOシネマズ ほか全国公開
<出演>
東出昌大 三浦貴大
皆川猿時 和田正人 木竜麻生 池田大 金子大地 阿部進之介 渋川清彦 田村泰二郎 渡辺いっけい / 吉田羊 吹越満 吉岡秀隆
<スタッフ>
監督・脚本:松本優作 企画: 古橋智史 and pictures プロデューサー:伊藤主税 藤井宏二 金山 撮影・脚本:岸建太朗 照明:玉川直人 録音:伊藤裕規 ラインプロデューサー:中島裕作 助監督:杉岡知哉 衣裳:川本誠子 梶原夏帆 ヘアメイク:板垣実和 装飾:有村謙志 制作担当:今井尚道 原田博志 キャスティング:伊藤尚哉 編集:田巻源太 音響効果:岡瀬晶彦 音楽プロデューサー:田井モトヨシ 音楽:Teje×田井千里 制作プロダクション:Libertas 制作協力:and pictures 配給:KDDI ナカチカ 宣伝:ナカチカ FINOR 製作:映画「Winny」製作委員会(KDDI Libertas オールドブリッジスタジオ TIME ナカチカ ライツキューブ)
原案: 朝日新聞 2020年3月8日記事 記者:渡辺淳基
2023 │ 127min │ color │ CinemaScope │ 5.1ch
(C)2023映画「Winny」製作委員会
公式サイト https://winny-movie.com/