収容所の「隣」で幸せな毎日を送る一家の肖像――――観る者の感性があぶりだされる要注目の一作『関心領域』

 こういうアプローチがあるのかと驚かされた。「“静”の不気味さ」、「青空の怖さ」をこれほど思い知らせてくれる作品に出会えるなんて。舞台となっているのは1945年当時の、アウシュビッツ収容所の「隣」。この「隣」というのがポイントだ。とはいえ、日本のように住宅が密集していないし、収容所の周りは「壁」。壁の中では信じられないほどむごいことがおこなわれているが、「壁」の外のひとたちは日常と自由を謳歌している。一家団欒、やさしいパパとママと素直な子供たち。ときにはレジャーにも出る。「壁」の内側から妙な煙のあがることはあっても、それが家族の心に深くとまることはなく、「壁」の内側では断末魔の叫び声だって聞こえただろうが、それは当然ながら「壁」の外側には届いていない。

 知らないということは時として幸せなことでもある。描かれているのは優雅ですらある家族の姿だ。一家団欒、やさしいパパとママと素直な子供たち。理想のファミリーだ……ただし「一家の大黒柱」がアウシュビッツ収容所長のルドルフ・ヘスであることを除けば。

 よってここでは「優しい父/夫」と「命ぜられた役割には非道なまでに徹する」ヘスの二面性が打ち出される。「父/夫」としてのヘスは、家族と一緒に、庭やプールのある自分の家で、平穏無事に過ごしたい。だが転任の辞令があれば、その場所にいかなければならない……。

 原作はマーティン・エイミスの同名小説。監督・脚本はジョナサン・グレイザーが担当した。第76回カンヌ国際映画祭でグランプリ、第96回アカデミー賞で国際長編映画賞・音響賞の2部門を受賞、ほか数々の栄誉に輝く話題作だ。

映画『関心領域』

5月24日(金)より新宿ピカデリー、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
配給:ハピネットファントム・スタジオ
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公式サイト
https://happinet-phantom.com/thezoneofinterest/