産声をあげたその瞬間から「悪」な人などいないはずだが、一度「悪」に染まると、その払拭は自分の力だけではどうにもならないのだろう。「悪」方面で光り輝いた者ほど、本人の意思など関係ないところで、「悪」方面からの熱い、カムバックに向けてのラブコールを受け続けることになる。更生とは、かくも難しい。

映画タイトルの“FARANG”とは、「よそ者」「外国人」という意味。主人公のサムは、いわゆる「白人」ではないフランス人である。タイに移ったのは市井の人としての生活を送るためで、ホテルのポーターをしながら妻や子供とつつましく暮らしている。妻は店を持ちたいという。そのためにも必死に働いて、お金を稼ぐ必要がある。ときにムエタイの賭け試合にも出場し、ずば抜けた身体能力を発揮するが、このパワーを、よりアグレッシヴな方向に利用して益を得たいと考える「エライ」者も当然ながらいて、彼はお金が欲しいので、逡巡しつつも、なんとなくまた、しかしズブズブと悪に入り込むことになる。
結果、どうなったか。その過程が冷酷なまでに描かれる。多くの、取り返しのつかないものを犠牲にしながら、それでも「まともになろうと」立ち上がろうとするサムに吹く風は厳しい。サムを演じるナシム・リエスは、キックボクシングの大会で優勝した経験を持っているという。超人的なアクション、重厚な身体が、物語に深い説得力を与えている。監督はザヴィエ・ジャン、共演はヴィタヤ・パンスリンガム、オリヴィエ・グルメ等。
映画『FARANG/ファラン』
5月31日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開
監督:ザヴィエ・ジャン
出演:ナシム・リエス、ヴィタヤ・パンスリンガム、オリヴィエ・グルメ
2022年/フランス/フランス語ほか/99分/カラー/シネマスコープ/5.1ch/原題:FARANG/字幕翻訳:大城哲郎/配給:クロックワークス 【R18】
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